レクセドの層

レクセドの層：脊髄灰白質の精密な地図

脊髄は、脳と体の末梢をつなぐ重要な中枢神経系の一部であり、その内部構造は複雑で多様な機能を担っています。脊髄灰白質は、脊髄の中心部を占めるH字型をした領域で、運動ニューロンや介在ニューロンなどの神経細胞体が集まっています。この灰白質を詳細に理解するために考案された分類法の一つに、レクセドの層があります。

レクセドの層（Rexed laminae）は、1950年代初頭にスウェーデンの神経解剖学者ブロール・レクセドによって提唱された、脊髄灰白質の10層への分類です。脳の領野を分類したブロードマンの脳地図と同様に、レクセドの層も、神経細胞体の構造や分布の違いによって定義されています。それぞれの層には、特徴的な細胞集団や神経線維の投射パターンが存在し、異なる機能を担っています。

レクセドの層の特徴：各層の役割と細胞

レクセドの層は、大きく分けて脊髄後角（I～VI層）、中間灰白質（VII層）、脊髄前角（VIII～IX層）、中心管周囲の灰白質（X層）の4つの領域に分けられます。以下、各層の特徴を詳しく見ていきましょう。

後角（I～VI層）

I層（辺縁層）： 後角の最も背側（外側）に位置し、神経細胞はまばらに分布しています。末梢からの痛覚情報（Aδ線維とC線維）を伝える軸索が投射し、痛覚伝導路の一部を形成しています。リサウエル路もこの層を通過します。
II層・III層： I層の前方に位置し、II層は小細胞が密集したローランドの膠様質と呼ばれます。III層も小細胞が分布していますが、II層ほど密集していません。II層には侵害受容器、温度受容器、機械受容器からの無髄線維が投射しています。
IV層： ニッスル小体を豊富に含む大きな細胞体が分布し、脊髄視床路を形成する重要な層です。III層とIV層は後角固有核（固有感覚核）を構成しています。
V層・VI層： 内側と外側にさらに細分されます。V層は脊髄視床路を構成し、VI層は脊髄小脳路の二次ニューロンの神経細胞体を含みます。ヒトではV層とVI層の細胞学的違いは小さく、まとめて扱われることもあります。

中間灰白質（VII層）

後角と前角の間に広がる領域で、頸髄と腰髄では前角の尖端まで広がります。胸髄では前角の基部に限定されます。
中間内側核、中間外側核、クラークの背核、オヌフ核など、複数の核を含みます。
中間内側核は内臓求心性神経の投射を受け、自律神経の調節に関与すると考えられています。
中間外側核は胸髄にのみ存在し、交感神経節前ニューロンの細胞体が含まれます。
クラークの背核は背側脊髄小脳路の二次ニューロンの細胞体を含み、固有受容感覚の伝達に関わります。
オヌフ核は仙髄に存在し、副交感神経の節前ニューロンの細胞体を含みます。

前角（VIII～IX層）

VIII層： 下行路（前庭脊髄路、内側縦束など）の一次ニューロンの終末が分布します。
IX層： 運動ニューロンの細胞体が集まる領域です。α運動ニューロンは骨格筋を直接支配し、γ運動ニューロンは筋紡錘を支配し、筋緊張の調節に関与します。レンショウ細胞は、α運動ニューロンからの側副線維を受け、反回抑制という負のフィードバック機構に関わります。

中心管周囲の灰白質（X層）

* 中心管を取り囲む灰白質で、神経膠細胞や血管が多く分布しています。

レクセドの層は、脊髄の機能を理解する上で重要な解剖学的枠組みを提供しています。それぞれの層における神経細胞の構造、分布、そして機能を詳細に理解することで、脊髄損傷や神経疾患の病態解明、そして治療法の開発に繋がる可能性があります。 今後も、様々な研究手法を用いた研究が進み、レクセドの層の理解はさらに深まっていくでしょう。

もう一度検索