レコード演奏家

レコード演奏家とは、オーディオ評論家の菅野沖彦氏が提唱した概念です。菅野氏は、かつて録音技師としての経験を持つ中で、録音技師の職人的な専門性が十分に認められていない状況に問題意識を持っていました。そこで、写真における写真家の概念を参考に、レコード制作を職能とする芸術家として「レコード制作家」という概念を考案しました。

「レコード演奏家」は、この「レコード制作家」に対応する概念として提唱されました。菅野氏によれば、「レコード制作家」とは、「最高の演奏が生まれ得る環境と物理的な条件を整え、演奏家の音色や音の造形はもちろんのこと、その心までも伝えようと努力する」者です。それに対して「レコード演奏家」は、「最高のレコード演奏が生まれ得る環境作りに努力することを生きがいとする趣味人であり、作品の魂に触れて感動することを求めてレコードを演奏する人々」と定義されています。

菅野氏は、レコードと「レコード演奏家」の関係を、西洋クラシックの演奏家と楽譜の関係に例えています。楽譜そのものは音楽ではなく、演奏家によって初めて音楽となるように、レコードもまたそれ自体は音楽ではなく、「レコード演奏家」によって「音楽の生命を蘇生」させられると説きました。さらに、楽器奏者にとっての楽器と、「レコード演奏家」にとってのオーディオ装置を同様の存在と位置づけ、楽器奏者が楽器にこだわるように、「レコード演奏家」もまたオーディオ装置の吟味にこだわるのは当然であるとしました。

この考え方では、レコード盤（やCDなどの記録媒体）は写真のネガ（あるいはポジ）フィルムに相当し、写真家が撮影を行うように、レコードを再生する「レコード演奏家」は、いわば「暗室作業」のプロ（業界用語で「プリンター」）に相当すると言えます。つまり、レコードというメディアを通じて、音楽の本質を最大限に引き出す役割を担うのが「レコード演奏家」なのです。単なる再生ではなく、作品の魂に触れ、その感動を追求する、趣味と芸術性の両方を兼ね備えた存在と言えるでしょう。

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注

外部リンク

* レコード演奏家論（菅野沖彦からの承諾のもと公開）

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