菅野沖彦

菅野沖彦（すがの おきひこ、1932年9月27日 - 2018年10月13日）は、日本のオーディオ評論家であり、その卓越した知識と情熱で、日本のオーディオ文化に多大な影響を与えた人物です。音楽への深い愛情を持ち、弟にはピアニストの菅野邦彦がいます。

生い立ちと音楽への目覚め

東京に生まれた菅野は、成蹊大学に通う傍ら、東京音楽学校（現在の東京藝術大学）の通信教育で音楽を学びました。城多又兵衛や下総皖一といった著名な音楽家から指導を受け、音楽の基礎を築きました。しかし、弟である菅野邦彦のピアノ演奏を聴いた際、自身の音楽家としての限界を悟り、音楽の道からオーディオの世界へと進むことを決意します。

オーディオ評論家としてのキャリア

オーディオ評論の道は、仲間と創刊したオーディオ雑誌から始まりました。その後、電波新聞社でオーディオ雑誌の編集に携わり、朝日ソノラマの編集長、フリーの録音制作家を経て、オーディオラボを創立します。1971年には、オーディオラボ・レコードを発売し、オーディオ評論家としての地位を確立しました。

菅野は、半世紀以上にわたり日本の高級オーディオ文化を牽引し、その卓越した録音技術と評論は、多くのオーディオファンを魅了しました。特に、その録音技術は高く評価され、数多くの優秀録音盤を生み出し、カリスマ的な人気を誇りました。

オーディオに対するスタンス

菅野のオーディオに対するスタンスは、単に良い音を追求するだけでなく、部屋の音響特性を考慮した上での機器選定と調整を重視しました。特にイコライザーを使った電気的な補正の重要性を提唱し、部屋との整合性を無視したケーブルへの過剰な投資を批判しました。また、自身でスピーカーシステムを構築するこだわりを持ち、既製品をほとんど購入しないという独自のスタイルを貫きました。これは、オーディオを始めた頃、スピーカーユニットしか販売されていなかったという時代背景にも影響を受けています。

人物像

音楽愛好家として、特にピアノを愛し、子供時代は音楽家を目指していましたが、弟の才能に触れて挫折したというエピソードがあります。また、カーマニアとしても知られ、1968年から40年以上にわたりポルシェを愛車として乗り続けました。

評論家としては、ロイ・デュナンやルディ・ヴァン・ゲルダーといった録音エンジニアにいち早く着目し、ジャズ録音の分野に貢献した功績も特筆されます。それまでほとんど語られることのなかった録音エンジニアの役割に光を当てた功績は大きいと言えるでしょう。友人であった江川三郎がハイエンドオーディオを嫌っていたのに対し、菅野はローエンドオーディオを嫌うという対照的な一面もありました。

愛用機器

菅野は、3系統のスピーカーシステムを構築していました。

JBLのホーンスピーカーを中心としたマルチアンプシステム
マッキントッシュのハーフシリンドリカルスピーカーシステム
ベンディングウェイブユニットによる無指向性スピーカーシステム

レコードプレーヤーにはトーレンスのリファレンスを使用するなど、独自のこだわりを持ってオーディオシステムを構築していました。

晩年と功績

2018年10月13日、老衰のため逝去しましたが、そのオーディオに対する情熱と知識は、今もなお多くのオーディオファンに影響を与え続けています。

著書

菅野は、以下の著書を執筆しています。

オーディオ羅針盤
音の素描
僕のオーディオ人生
新レコード演奏家論

また、関連書籍として「菅野レコーディングバイブル」（嶋護 編著）があります。

関連人物

江川三郎
* 長岡鉄男

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