レゴリス

レゴリスとは、固い岩盤などの表面を覆う、未固結の堆積層全般を指す言葉です。日本語では「表土」と訳されることもあり、英語ではregolithと呼ばれます。地球科学の分野と、惑星科学の分野とでは、この言葉が指す対象や文脈に若干の違いが見られます。

地球科学の一般的な領域では、レゴリスは地球の陸上に存在する、軟らかい地表の物質を包括的に指します。これには、長い時間をかけて岩石が風化してできたもの、風や水によって運ばれて堆積した土砂、火山活動によって降り積もった火山灰、地滑りなどで生じた岩屑などが含まれます。日本の土木工事の現場などで「土」という言葉が使われる際に、このレゴリスを意味することもあります。また、広義には、地球を含む様々な天体の表面に、比較的ゆるやかに積み重なった岩石由来の粒子や破片、さらには小天体の衝突時に発生したガラス質の物質や宇宙塵などをまとめてレゴリスと呼ぶこともあります。

他方、惑星科学の分野では、レゴリスは主に月や火星、小惑星といった地球以外の天体の地表面に広がる、微細な堆積層を指す言葉として用いられます。これらの天体表面のレゴリスは、宇宙空間を漂う流星物質が天体表面に衝突した際に生じた破片や、真空、放射線、微小隕石の衝突といった厳しい宇宙環境による岩盤の風化作用（宇宙風化）によって細かく砕かれた物質などで構成されています。

特に月面は、その表面のほとんどが厚さ数センチメートルから場所によっては数十メートルにも及ぶレゴリスによって覆われています。月の表面に見られるクレーターなど、比較的形成されてから時間の経っていない地形ほど、レゴリスの層は浅い傾向があります。アポロ計画によって地球に持ち帰られた「月の石」と呼ばれるサンプルの中でも、特に細かい砂や礫に分類されるものがこのレゴリスに該当します。将来的に月面に基地を建設し、長期的な活動を行う計画においては、この月のレゴリスが非常に重要な資源として注目されています。例えば、水や酸素を現地で調達するための供給源となったり、あるいは基地建設における建築材料そのものとして利用したりすることなどが検討されています。

しかし、月のレゴリスは人間の活動にとって課題も提示しています。アポロ宇宙船が月面から持ち帰ったレゴリスの微粒子が、宇宙船内で乗組員の健康に影響を及ぼす事例が報告されています。「月面花粉症（Lunar hay fever）」と呼ばれるこの現象は、花粉症のような鼻水、くしゃみ、目のかゆみといったアレルギー性鼻炎に似た症状を引き起こしました。アポロ17号の乗組員であった宇宙飛行士ハリソン・シュミット氏によって初めて詳細に報告され、月面に降り立った12人の宇宙飛行士全員が何らかの症状を経験したとされています。月のレゴリスの微粒子は非常に鋭利な形状をしており、呼吸器に吸い込まれることで、肺やその他の臓器に損傷を与えたり、長期的な健康影響として発がんリスクを高めたりする可能性も指摘されており、宇宙空間での有人活動における重要な懸念事項の一つとなっています。

このように、レゴリスは地球の身近な土壌から、遠く離れた天体の表面に広がる微細な粒子層まで、その定義と重要性は多岐にわたります。特に宇宙開発が進む現代においては、天体レゴリスの特性を理解し、その利用とリスク管理が将来の宇宙活動における重要な鍵となります。

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