レジリエント・ツーリズム

レジリエント・ツーリズムとは

レジリエント・ツーリズム（Resilient Tourism）は、2020年に蔓延した新型コロナウイルスによって影響を受けた観光業を回復させるために提案された新たな観光の考え方です。この概念は、2020年9月28日にユネスコが開催したオンライン会議「国際討論：文化観光、コロナからの回復」で議題として挙げられ、旅行の在り方が見直されるきっかけとなりました。

「レジリエント」の意味

「レジリエント」という言葉は、元々「レジリエンス（resilience）」から派生したもので、困難や課題に直面した際の強さや回復力を指します。心理学の分野でも、困難な状況における適応力やその過程を意味します。従来は個人の特性に焦点が当てられていましたが、近年では地域社会の復興過程も含むようになり、全体を俯瞰的に捉える概念として重要性が増しています。これを観光の文脈に当てはめると、ウィズコロナ時代においてどのように旅行を行うべきかを示すものとなります。

背景

国連は持続可能な開発目標（SDGs）への取り組みを進めており、ユネスコはこのアジェンダを特に文化的な観点から支援しています。SDGsの目標11では、持続可能で包摂的な都市や居住の実現について言及しており、文化や自然遺産の保護と活用が強調されています。観光は有形・無形の文化遺産を訪れる機会を提供し、地域社会の経済や文化を支える要素として重要視されているのです。

具体的な提案

この新たな観光モデルは、観光地の環境や遺産管理を厳密に行いながら進めることが求められます。コロナウイルスのパンデミックによって観光業は大打撃を受け、特に途上国では失業率が高まり、経済発展が停滞しています。国連観光機関（UNWTO）は、効果的な回復策を早急に講じることで、観光業の再興が求められると指摘しています。

感染症対策と旅行の新たな姿

観光業再開において最大の課題は健康と安全の確保です。新型コロナウイルスの影響下では、消毒液の設置やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの厳守が必要不可欠です。日本では、上述の対策を継続して施行し、世界遺産等の観光地も再開を果たしました。しかし、国際旅行には依然として入国制限が多く、国内旅行が重要視される傾向にあります。マイクロツーリズムなど、短距離での旅行が現実的とされています。

国際的な連携

2020年11月には、サウジアラビアでのG20サミットで、コロナ後の旅行業界を支える連携が確認され、「G20ツーリズムワーキンググループ」が設置されました。このような国際的な観点からの取り組みが、観光業の持続可能な復興につながることが期待されます。

環境保護と文化遺産の保全

各国が取り組んでいるレジリエント・ツーリズムは、環境保護と文化遺産の保存にも力を注いでいます。オーストラリアではエコツーリズムを進める中で、パークレンジャーの雇用などを通じて地域活性化を図っています。イギリスやカナダでもそれぞれの文化遺産保護に注力した政策を進めており、地域経済を活性化させることを目指しています。

デジタル技術の活用

旅行業界では、デジタル技術を駆使した新たなサービスが求められています。電子航空券やQRコード決済の普及により、接触機会を減少させ、より安全な旅行体験を提供することが目指されています。また、オンラインツアーなどの新しい形で文化遺産へのアクセスを可能にし、その収益を保全活動に充てる試みも増えています。

文化観光と地域経済の活性化

レジリエント・ツーリズムは、文化観光の促進にも貢献しています。日本においても、地域における文化観光推進の法律が2020年に成立し、地域資源を活かした意義ある旅行の形を促進しています。

個人の取り組みと課題

ユネスコは、個人旅行者が環境に配慮した行動をすることを推奨しており、旅行前後の行動におけるチェックリストを提供しています。しかし、途上国におけるインフラの不足や観光意識の欠如が問題となっており、持続可能な観光の達成には国際的な支援が欠かせません。

レジリエント・ツーリズムは、観光による地域の持続可能な発展を目指しており、文化や遺産を大切にしながら新たな旅行の形を探求していく取り組みです。これにより、私たちは未来の観光をより良いものにしていくことが求められています。

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