レジーム論

レジーム論：国際協調の謎を解く鍵

国際関係論において、国家間の協調は常に重要なテーマです。特にアナーキーな国際社会において、国家が自国の利益を追求する中で、なぜ協調が生まれるのか、そして持続するのかは、長年の論争となっています。レジーム論は、この問いに答える有力な理論の一つです。

レジーム論の基礎

レジーム論は、国際制度や国際レジームが国家（や他の国際的アクター）の行動に影響を与え、協調を促進すると主張します。現実主義が国家間の対立を強調するのに対し、レジーム論はアナーキーな状況下でも協調が存在することを認め、そのメカニズムを解明しようと試みます。貿易、人権、安全保障など、様々な分野での協調事例がレジームの具体例として挙げられます。

スティーブン・クラズナーによる「期待の収斂を整える規範、決定、ルール、手続きを持つ制度」という定義は、レジーム論の中心的概念です。この定義は幅広く、公式な国際機関から非公式な合意まで、多様な協調形態を包含しています。

国際政治経済学におけるレジーム論

国際政治経済学（IPE）において、レジーム論は主要な理論の一つです。IPEにおけるレジーム論には、大きく分けて三つのアプローチがあります。

1. リベラリズムアプローチ

リベラリズムアプローチは、国家間の利益の収斂が協調の基礎であると主張します。レジームは、国家の行動基準を確立し、相互の期待を調整することで協調を促進します。ネオリベラリズムは、この主張をさらに発展させ、繰り返しゲーム理論を用いて、長期的な相互作用において協調が合理的な戦略であることを示しています。ロバート・コヘインは、国際レジームが協調を促進する要因として、行動監視、取引費用削減、期待の一般化などを挙げています。

2. リアリズムアプローチ

リアリズムアプローチは、レジームを国際システムにおけるパワーバランスの反映と捉えます。強力な覇権国の存在がレジームの形成と維持に不可欠であるという覇権安定論は、リアリズムアプローチの中心的主張です。レジームは、強力な国家の利益を反映したものであり、国家に対して独立した力を持つとは考えません。スーザン・ストレンジは、戦後の国際機関をアメリカの覇権戦略の道具と解釈した代表的な例です。

3. 認知主義アプローチ

認知主義アプローチは、リベラリズムとリアリズムの合理主義的アプローチを批判します。国家の合理的行動や静的な利益という仮定に疑問を呈し、学習、認識、社会政治的文脈といった要素の重要性を強調します。認知主義は、ポスト実証主義的方法論を取り入れ、社会制度とアクターをその周辺環境から切り離して分析することはできないと主張します。

レジーム論の意義

レジーム論は、国際協調のメカニズムを解明する上で重要な貢献をしています。現実主義的な視点だけでは説明できない国際協調の事例を分析し、国際制度の役割を浮き彫りにしました。ただし、各アプローチにはそれぞれ限界があり、国際協調の複雑な様相を完全に説明しきるには至っていません。今後、これらのアプローチを統合し、より包括的な理論構築が求められます。

参考文献

『国際レジーム』Stephen D. Krasner著, 河野勝監訳、勁草書房、Tōkyō、2020年10月。ISBN 978-4-326-30293-2。

関連用語

国際政治経済学
リベラリズム
国際レジーム
* グローバル・ガバナンス

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