レスリー・ハワード (ピアニスト)

レスリー・ハワード（Leslie Howard、1948年4月29日 - ）は、オーストラリア出身の多才な音楽家です。ピアニスト、音楽学者、そして作曲家として、世界の音楽界に独自の足跡を残しています。特に、フランツ・リストの研究と演奏における貢献は計り知れません。

リスト全ピアノ作品全曲録音という偉業

ハワード氏のキャリアにおいて、最も特筆すべき業績とされるのが、イギリスの著名なクラシック音楽レーベル、ハイペリオンからリリースされたフランツ・リストの全ピアノ作品全曲録音集です。これは、約100枚にも及ぶCDで構成される、前例のない規模の録音プロジェクトでした。リストの膨大な作品群を、一人のピアニストが網羅的に録音するという試みは、音楽史上でも極めて稀な例です。このプロジェクトは長期間にわたり続けられ、まさにハワード氏の音楽人生における金字塔と言えるでしょう。

全集の持つ比類なき価値

このリスト全集の価値は、その単なる網羅性だけにとどまりません。リストは非常に多作な作曲家でしたが、その作品の全てが広く演奏されてきたわけではありません。特に、初期作品や改訂版、あるいは実験的な作品など、多くの知られざる楽曲が存在します。ハワード氏は、これらの埋もれていた作品に光を当て、初めてプロの録音として世に送り出すという重要な役割を果たしました。

録音技術が確立されてから今日に至るまで、ハワード氏による録音以外に存在しないリストのピアノ作品は数多くあります。例えば、リストが未完成のまま遺した作品についても、ハワード氏は音楽学者としての知見を活かし、慎重な補筆を施すことで、演奏可能な形に完成させ、全集に含めました。これらの補筆は、リストの創作意図を深く理解した上で行われており、学術的にも高い評価を得ています。

さらに、現在、安定して入手可能な音源として存在するリストのピアノ曲のうち、ハワード氏の録音以外には聴くことができないという楽曲も少なくありません。これは、彼の全集が単なる演奏記録という枠を超え、リスト研究や演奏実践にとって欠かせない、極めて貴重な一次資料となっていることを意味します。この全集は、リスト作品の全体像を理解する上で、あるいは普段聴く機会の少ないレアな楽曲を発見する上で、音楽愛好家や研究者にとって不可欠な存在です。

音楽学者、作曲家としての側面

ハワード氏はピアニストとしてだけでなく、優れた音楽学者としても重要な業績を残しています。リスト作品の校訂や研究はもちろんのこと、例えばニコロ・パガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番の初稿を、自筆譜に基づき徹底的に校訂し、出版したことは、彼の学術的な貢献を示す一例です。この校訂譜は、パガニーニの創作プロセスを理解する上で新たな視点を提供しました。

また、彼は作曲家としても活動していますが、その作品は多岐にわたると推測されます。

現在の活動

現在、ハワード氏は世界的な音楽コンクールの審査員としても活躍しています。特に、フランツ・リストの名を冠したユトレヒト・リスト国際ピアノコンクールでは、次世代を担う若いピアニストたちの才能を見出し、育成する役割を担っています。これは、彼のリストに対する深い造詣と、長年の経験が評価されている証と言えるでしょう。

結び

レスリー・ハワード氏は、その卓越した演奏能力と、音楽学的な深い知識を融合させた稀有な存在です。特にフランツ・リストの作品世界に対する彼の探求心と献身は、前人未踏の全曲録音という形で結実し、世界の音楽遺産に計り知れない貢献をしました。彼の活動は、演奏、研究、教育という音楽の多面的な領域に及び、今後も多くの人々に影響を与え続けることでしょう。

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