レッドライニング

レッドライニングの歴史と影響

レッドライニング（赤線引き）は、アメリカ合衆国において、主に金融機関が低所得層の黒人住民が住む地域をリスクが高いと見なし、融資の対象から排除した事例を指す言葉です。この差別行為は、特に1940年代から1960年代にかけて顕著に見られました。金融機関は、これらの地域に赤い線を引き、居住者には融資を行わない取り扱いをしました。

1960年代に突入すると、公民権運動の高まりを受け、アメリカ社会はこの不正を是正しようとする動きが強まりました。その結果、1968年に施行された公正住居法（Fair Housing Act）では、住宅融資における人種・宗教差別が禁じられました。その後も政治的圧力や社会の変化に伴い、1974年には均等信用機会法（Equal Credit Opportunity Act）が制定され、国籍・年齢・性別に基づく融資差別も禁止されることになりました。さらに、1975年には住宅抵当貸付公開法（Home Mortgage Disclosure Act）が施行され、金融機関に対して融資の件数と金額を公開することが求められるようになりました。

1977年には地域社会再投資法（Community Reinvestment Act, CRA）が制定され、地域社会のクレジットニーズに応じた融資を金融機関に義務付ける法律が成立しました。この法律は、地域の経済発展を促進することを目指しており、金融機関の評価基準にも影響を与えるようになりました。しかし、一部の経済学者や金融業界団体からは、市場原理に任せるべき問題に法律による規制が適用されることに反対の声が上がりました。

1990年代に入ると、様々な研究の結果としてCRA施行後も融資差別が依然として存在することが広く認識されることになりました。この問題は、1992年のロサンゼルス暴動を契機に政治の争点となり、ビル・クリントン大統領は地域社会開発銀行（community development banks）構想を提唱しましたが、議会の賛成を得られず、不成功に終わりました。

一方で、地域社会再投資法の適用が経済合理性から逸脱しているとの批判もあったものの、新たな市場へのアプローチが期待されるとも見られ、多面的な議論が行われました。日本においてもアメリカの地域社会再投資法が地域再生の参考として注目されることが見受けられます。

1990年代後半、アメリカにおける住宅バブルの進展が問題の性質を大きく変えることになります。当初の融資差別が問題視されたのに対し、今度は低所得層に対して過度の融資が行われるようになったのです。このような過剰融資は弱い立場の人々をより困難に陥れることから、略奪的融資（predatory lending）やサブプライム融資（subprime lending）として批判されることが増えました。

福光寛は、この過大融資の問題を「金融排除」の一形態として捉えており、サービスの供給が行われないことと同じように重大な課題としています。この背景には住宅ローンの証券化が広がったことがあり、金融機関は融資のリスクを投資家に転嫁することが可能になったためです。

このように、レッドライニングの歴史はアメリカにおける金融の公平性や社会的公正を考える上で重要なテーマです。今後もこの問題に対する認識や対策は続いていく必要があります。

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