ロサンゼルス暴動

1992年ロサンゼルス暴動：アメリカ社会の深層を暴いた6日間

1992年4月末から5月初頭にかけて、アメリカ合衆国ロサンゼルスで発生したロサンゼルス暴動は、アメリカ社会における人種問題、特に黒人と白人の対立、そしてそれ以上に多人種都市における複雑な社会構造が露呈した歴史的事件です。単なる黒人と白人の対立を超え、様々な人種を巻き込み、甚大な被害をもたらしたこの暴動は、現代アメリカ文化においても頻繁に参照され、映画や小説などの題材としても取り上げられています。日本では「ロス暴動」と略されることも多いです。

発端：ロドニー・キング事件

直接の引き金となったのは、1991年3月3日に発生したロドニー・キング事件です。黒人男性であるキングはスピード違反で警察に停止を求められた後、逃亡し、逮捕されました。その際、警官4人から激しい暴行を受け、偶然その様子を捉えたビデオ映像が全米に放送され、警察の対応に対する批判が殺到しました。

約1年後、警官4人は暴行容疑で起訴されましたが、キングが仮釈放中だったことや飲酒運転の疑いもあったことなどを理由に、1992年4月に無罪判決が下されました。この判決に、黒人社会を中心に強い怒りが爆発し、抗議活動が暴徒化、警察署や裁判所への襲撃へと発展しました。

暴動の拡大と被害

暴動は警察署だけでなく、韓国系アメリカ人が経営する商店などにも拡大し、6日間におよぶ略奪や放火が続きました。逮捕者1万人、被害総額10億ドルという大規模な暴動となり、1980年のマイアミ暴動や2015年のボルティモア抗議活動と並んで、現代アメリカ史上最大級の人種間衝突として記録されています。

この暴動は、メディアの報道姿勢も大きく問い直す契機となりました。初期報道では、黒人と韓国系というマイノリティ同士の争いとして矮小化され、韓国系アメリカ人の黒人に対する差別意識や両者の対立が誇張された報道が繰り返されたことが後に明らかになり、メディア報道における人種的偏見の問題点が浮き彫りになりました。

暴動の経緯と主要な出来事

ロドニー・キング事件: 無抵抗のキングへの過剰な暴行は、人種差別を含む警察の暴力性を露呈しました。裁判における無罪判決は、黒人社会の怒りを爆発させる導火線となりました。
警察署襲撃: 無罪判決の報道後、抗議集会が暴徒化し、警察署への襲撃が始まりました。
レジナルド・デニー集団暴行事件: 白人トラック運転手デニーが暴徒に襲撃される様子がテレビで放映され、暴動の過激さを改めて示しました。
韓国系商店への襲撃: 韓国系アメリカ人の経営する商店が襲撃されたことについては、当初は黒人と韓国系市民間の対立が原因と見なされましたが、後年の研究では、黒人居住区で成功した目立つ店舗だったことが主な理由であると結論づけられています。
暴動の激化と鎮圧: 暴動の拡大を受け、非常事態宣言が発令され、州兵や連邦軍が派遣されました。ロサンゼルス市長や州知事、大統領も対応に追われました。
暴動の収束: ロドニー・キングによる暴動収束の呼びかけや、人種間の対話、平和的な抗議活動などが奏功し、6日後に暴動は沈静化しました。
* 再捜査と改革: 連邦司法省は、無罪となった警官らを公民権法違反で再捜査し、一部に有罪判決が下されました。ロサンゼルス市警は組織改革を行い、人種差別対策を強化しました。

暴動の背景

ロサンゼルス暴動は、ロドニー・キング事件の無罪判決だけが原因ではありません。長年にわたる人種間の緊張、サウス・セントラル地区における黒人の高失業率と治安悪化、警察の厳しい取り締まり、そして人種間の経済格差などが背景にありました。また、1980年のマイアミ暴動も、この暴動のモデルになったとされています。さらに、プエルトリコ系やラテン系、アジア系移民の増加による人種構成の変化も、複雑な社会問題の要因の一つです。司法における人種差別も、黒人社会の不満を募らせる要因となっていました。

暴動の影響とその後

この暴動は、アメリカ社会に大きな衝撃を与え、人種差別問題や警察の暴力性、社会的不平等、メディアの役割など、様々な問題点が改めてクローズアップされました。暴動後、人種間対話の試みも活発化しましたが、人種間の溝は容易には埋められませんでした。

ロサンゼルス暴動は、単なる一過性の事件ではなく、アメリカ社会の深層に潜む問題を露呈した、歴史的な出来事でした。その教訓は、現代アメリカ社会においても、なお色あせることなく、重要な意味を持ち続けています。

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