レッド・ストーム作戦発動

レッド・ストーム作戦発動

『レッド・ストーム作戦発動』（原題：Red Storm Rising）は、1986年に発表された、アメリカの人気作家トム・クランシーとゲームデザイナーのラリー・ボンドの共著による長編小説です。東西冷戦下、大国間の全面衝突すなわち第三次世界大戦をテーマに据え、当時の最先端軍事技術と詳細なシミュレーションに基づいて、その戦いの様相をリアルに描き出した軍事シミュレーション小説、架空戦記の代表作です。

物語は、ソビエト連邦が直面する予期せぬ危機から始まります。シベリアの巨大石油コンビナートがイスラム過激派テロリストによって破壊され、ソ連は深刻な石油供給不足に陥り、経済が危機的状況に追い込まれます。共産党政治局は、この窮状を脱するため、豊富な石油資源を持つ中東地域を軍事占領することを決定。これは当然、NATO諸国との決定的な対立を招くことになります。

ソ連指導部は、NATOの介入を阻止するため周到な策略を巡らせます。国際社会の警戒を和らげようと、大規模な軍縮を公言し、旧式原潜を解体するなど平和姿勢を装う一方、裏では部隊を訓練し、戦争準備を進めます。さらに開戦口実を作るため、KGBを使った偽装工作を実行。クレムリン内部で爆破テロを起こし、その犯行を西ドイツの仕業と捏造、西側への報復攻撃の口実とします。

西ドイツへの虚偽のテロ非難を大義名分としたソ連は、準備した軍事力で西ドイツおよび北大西洋の要衝アイスランドへの電撃的な侵攻を開始。これにより東西間の緊張は爆発し、第三次世界大戦が勃発します。戦場は西ヨーロッパ、北欧、そして大西洋全域に広がり、ソ連軍とNATO軍の間で、陸海空にわたる大規模かつ激しい戦闘が繰り広げられます。大西洋上の制海権を巡る戦いは、物語の重要な要素となります。

この小説の特徴は、核兵器を使用しない設定のもと、当時の最先端技術を結集した多様な通常兵器による現代戦が、驚くほど詳細かつリアルに描写されている点です。例えば、

ソ連の超音速爆撃機Tu-22M バックファイアによるNATO空母機動部隊への対艦ミサイル攻撃
静かに潜航する原子力潜水艦からの対地巡航ミサイル攻撃
存在が極秘であったステルス攻撃機による目標への奇襲
F-15戦闘機から発射される対衛星ミサイル（ASAT）による人工衛星攻撃

など、多岐にわたる兵器と戦術が戦場の緊迫感とともに描かれています。

こうしたリアリティの高い軍事描写は、共著者ラリー・ボンドがデザインした現代海戦シミュレーションゲーム『ハープーン』の存在が大きく影響しています。物語の主要な戦闘シーン、特に複雑な海戦や航空戦は、『ハープーン』を用いた綿密なシミュレーションを通じて検証され、その結果が小説の描写に反映されています。この手法により、作品は単なる冒険小説に留まらず、軍事専門家も唸るほどの戦術的・技術的リアリティを獲得しています。

『レッド・ストーム作戦発動』は、東西冷戦下、大国間による通常兵器を用いた全面戦争がどのように展開するかを、現実に即して描こうとした野心的な作品です。最新の軍事知識とシミュレーションを取り入れた手法は、その後の架空戦記ジャンルに多大な影響を与え、今日まで読み継がれる不朽の名作となっています。

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