レマーゲンの戦い

レマーゲンの戦い：ライン川を渡った奇跡

第二次世界大戦末期、1945年3月、西部戦線におけるレマーゲンの戦いは、連合軍の進撃を大きく加速させる転換点となりました。この戦いは、ライン川に架かるルーデンドルフ橋を巡り、アメリカ軍とドイツ軍が激しい攻防を繰り広げたものです。

戦闘前の状況

連合国遠征軍最高司令官アイゼンハワーは、ドイツ軍のライン川東岸への撤退を阻止し、連合軍の攻撃を集中させるために、ライン川の支流を制圧するよう命じていました。連合軍はライン川の橋を無傷で手に入れることを期待していませんでしたが、アイゼンハワーは、もし無傷の橋を発見した場合は「最大限に活用し、橋頭堡を築く」よう厳命していました。

ライン川西岸での戦い

1945年3月1日、ライン川にかかる22本の橋と25本の鉄橋のうち、残っていたのはわずか4本でした。アメリカ軍は「ランバージャック作戦」を通じてライン川西岸に追い詰められたドイツ軍を掃討し、第9軍の側面への反撃を防ぐ任務を担っていました。しかし、ドイツ軍がルール川のダムから水を放出したため、アメリカ軍の前進は遅れていました。

アドルフ・ヒトラーは、西部戦線の最高司令官ルントシュテットに対し、ライン川東部への撤退を禁じ、全軍に死守を命じました。その結果、西岸に展開していたドイツ軍は分散し、多数の捕虜を出すことになりました。

ケルン占領とルーデンドルフ橋

第9機甲師団司令官レナード少将は、ルーデンドルフ橋について「もし君があれを奪うことができれば、君の名前は歴史に残るだろう」と伝えられました。第9機甲師団は迅速に動き、ドイツ軍を驚かせながらライン川へと進撃しました。

第1軍がケルンを攻略しライン川西岸に到達すると、連合軍の作戦は大きな成功を収めましたが、ドイツ軍はホーエンツォレルン橋を爆破してしまいました。

レマーゲンの橋頭堡確保

アイゼンハワーは、ライン川を渡る地点として、ケルンとボンの間、またはアンダーナッハとコブレンツの間を有利と見ていました。しかし、レマーゲンの鉄道橋周辺は、地理的、兵站的に悪条件が重なっていました。アメリカ軍は、ライン川を渡ることさえ想定していなかったのです。

ドイツ軍は、連合軍がアール川付近のラインバッハ渓谷を利用してライン川を渡ると考えていました。しかし、ザンゲンはモーデルを説得できず、ルーデンドルフ橋を守るための十分な兵力を配置できませんでした。

ドイツ軍の混乱と防御

2月から3月にかけて、ドイツ軍の指揮系統は何度も変更され混乱していました。ルーデンドルフ橋は、陸軍ではなく武装親衛隊の管轄下に置かれていました。橋の管理は陸軍に移されましたが、軍管区の将校らが指揮権を維持しようと介入し、防空部隊は空軍の司令部に報告を行うなど、組織は混乱を極めていました。

3月6日、第9装甲部隊はすでにライン川から14kmしか離れていませんでしたが、同日ボッシュは、橋の詳細を後任のボスマーに報告することができませんでした。ヒトラーはジークフリート線を維持するように命令しましたが、これによりドイツ軍の通信、指揮系統、ライン川西岸の防衛全体が混乱することになりました。

3月7日午前1時、第12軍団の新司令官ヒッツフェルトは、ルーデンドルフ橋の防衛を担当するよう命じられました。副官のシェラー少佐がレマーゲンに派遣されましたが、アメリカ軍の進撃に巻き込まれ、到着が大幅に遅れることになりました。

橋の発見と戦闘

3月7日午後、エンゲマン中佐率いる部隊は、レマーゲンを攻略する目的で進軍中、ルーデンドルフ橋がまだ架かっているのを発見しました。これは、ドイツ軍がまだ破壊していないライン川にかかる最後の橋の1つでした。

ドイツ軍は橋の破壊を計画していましたが、ヒトラーの命令により、連合軍が橋の8km以内に接近するまで爆薬を設置することができませんでした。また、橋の破壊には担当将校からの書面による命令が必要だったため、迅速な対応が困難でした。

橋を渡るアメリカ軍

第14戦車大隊A中隊は、橋の路面と石橋脚からドイツ軍の守備隊を撃退し、戦車部隊は東岸の高射砲部隊と交戦しました。中隊長のティマーマンは、橋が破壊される危険性があるにもかかわらず、部隊を率いて橋を渡りました。

アメリカ軍は、橋の上や下でドイツ軍の攻撃をかわしながら爆薬の解体を護衛し、橋の破壊を阻止しました。ティマーマン中尉は爆薬を取り除く部隊の中にいました。ドラビックは、爆発で沈んだ埃や煙の中を走り、橋を渡りきりました。

橋の占領と橋頭堡の建設

アメリカ軍は橋を占領し、工兵部隊が損傷を修復しました。第310歩兵連隊がルーデンドルフ橋を渡り、その後、他の部隊も続きました。橋の修理が進められる中、戦車の重量に耐えられるかが問題となりましたが、工兵部隊は補強を急ぎました。3月8日午前12時15分、第14戦車大隊所属の戦車が橋を渡りました。

アメリカ軍は橋を上手く渡りましたが、東岸の足掛かりは脆弱で、ドイツ軍はまだ橋と細い橋頭堡の周りの周辺を見下ろす位置を維持していました。

橋の倒壊と連合軍の進撃

数ヶ月にわたる爆撃や砲撃にさらされていたルーデンドルフ橋は、3月17日午後3時頃に倒壊しました。橋の倒壊により、多数の工兵が死亡または負傷しました。

連合軍は進撃を続け、ドイツ軍のライン川による本土への防衛の期待を打ち砕きました。3月24日までには、アメリカ第1軍はライン川を渡り、約325,000人の兵力となっていました。

ドイツ軍の反撃と航空機による攻撃

ドイツ軍は橋を破壊し、ライン川東岸のアメリカ軍を孤立させるために、あらゆる手段を講じました。しかし、利用できる予備部隊はなく、集められる限りの部隊で反撃を試みるしかありませんでした。

ヒトラーは橋を何としても破壊するよう命じ、ドイツ軍は航空機による攻撃を試みました。メッサーシュミットMe262などのジェット機も投入されましたが、アメリカ軍の対空砲火により、橋の破壊には失敗しました。

V2ロケットによる攻撃とフロッグマンの出動

ヒトラーはV2ロケットによる橋への攻撃を命じましたが、不正確な弾道のため、橋から大きく外れて着弾しました。また、フロッグマンを派遣して橋に地雷を仕掛けさせようとしましたが、アメリカ軍に発見され、失敗に終わりました。

砲兵部隊による攻撃とバイエルラインの解任

ドイツ軍は砲兵部隊による攻撃を続けましたが、効果的な損害を与えることはできませんでした。バイエルラインの地上部隊による反撃も効果を挙げられず、モーデル元帥は彼を解任しました。

戦いの終了後とドイツ軍による軍法会議

アイゼンハワーは、この橋の奪取を「戦争中に時折訪れる稀でつかの間の機会の一つであり、もしそれがつかめれば、将来の成功を決定する上で計り知れない効果がある」と表現しました。

ヒトラーは橋を失ったことに激怒し、ヒュブナー大将を呼び寄せ、橋の破壊に失敗した将校を軍法会議にかけさせました。ヒュブナーはブラトゲ大尉、シェラー少佐、ペータース中尉、ストローベル少佐、クラフト少佐を裁判にかけ、死刑を宣告しました。

部隊への表彰とレマーゲンの奇跡

レナード少将はブリッグを授与し、オークリーフクラスター将軍は橋を占領して橋頭堡を制圧した部隊の行動に対して功労勲章を授与しました。連合軍のジャーナリストは、この橋の攻略を「レマーゲンの奇跡」と呼びました。

その後の橋

戦後、ルーデンドルフ橋は再建されることはありませんでしたが、ライン川の西側に残された塔は現在、記念館になっています。

レマーゲンの戦いは、第二次世界大戦の終結を早め、ヨーロッパの解放を大きく前進させることになったのです。

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