レムレース

レムレース (Lemures) の概念とその影響

レムレースは、古代ローマの神話で重要な役割を果たす存在で、「騒がしい」「害を及ぼす」という意味合いを持つ影のような霊を指します。これらの霊は、しばしば悪霊に近い存在とされ、特に埋葬や葬儀が適切に行われなかった人々の霊が含まれます。レムレースという名は複数形であり、単数形は「レムール (Lemur)」です。この霊たちは、怨念を抱えたまま彷徨う存在であり、通常は人々に対して恐怖をもたらすものと捉えられています。

文学においてもレムレースは取り上げられており、詩人ホラーティウスやオウィディウスの作品に見られます。オウィディウスは、レムレースを「地下世界の執念深い祖先神」として描写し、彼らが恨みを抱いて彷徨う理由や古代の儀礼について言及しています。彼の視点からは、レムレースは単なる影ではなく、古くからの信仰の一部であり、神秘的な伝統が根底にあることを指摘しています。

後の時代には、アウグスティーヌスがレムレースと悪霊にあたるラルウァを結び付け、これらの存在を「悪いマーネース神」と表現しました。一方で、良い霊を示すラレースも存在し、これらのカテゴリーはローマ人の死者観を反映しています。レムレースはその姿を持たず微かな形で存在するため、彼らの存在は暗闇や不安と密接に結びついています。

特にローマでは、毎年5月に「レムレースを慰め、家庭から追い払う祭り」が行われました。この祭りは、家庭を守るために行われ、家長は黒い豆を後ろに投げて、その動きに気を配らないようにしました。これは、レムレースが豆を好むと信じられていたためです。祭りの際、もしレムレースが家長からの供養に満足しなければ、青銅の壷を叩くことでその存在を知らせ、不安を引き起こすと考えられていました。

また、レムレースから発想を得た生物学者カール・フォン・リンネは、キツネザル族のラテン名を「Lemur」と名付けました。この名は、キツネザルが持つ「幽霊のような目つき」と「夜行性の特性」に由来しています。さらに、昆虫の幼虫を指す「larva」というラテン語も彼によって普及しました。地質学においてレムリア大陸という名は、これらのキツネザルに由来していますが、神秘学上のレムリアとはレムレースから名前が取られたものです。

以上のように、レムレースは古代ローマの死者観や文化、さらには現代の生物名にまで影響を与える、非常に興味深い存在です。

もう一度検索