レモン山サーベイ

レモン山サーベイ (Mount Lemmon Survey, MLS)

レモン山サーベイ（Mount Lemmon Survey, 略称MLS）は、アリゾナ州に拠点を置く、太陽系内の小天体の探査を専門とする重要なプロジェクトの一つです。このサーベイは、広範囲な空を系統的に観測するカタリナ・スカイサーベイ（Catalina Sky Survey, CSS）の一環として実施されています。国際天文学連合（IAU）によって割り当てられた天文台コードはG96です。

本サーベイは、アリゾナ州ツーソン市の北東に位置するサンタ・カタリーナ山地のレモン山天文台で行われています。この天文台は標高2791メートルの高地にあり、クリアな大気層の下での観測が可能です。観測には、アリゾナ大学スチュワード天文台が運用する口径60インチ（約1.52メートル）のカセグレン式望遠鏡が用いられています。この観測システムにより、広範囲の空を効率的に調査し、暗い天体をも検出する能力を持っています。

レモン山サーベイの主要な活動は、地球に接近する可能性のある天体、すなわち地球近傍天体（Near-Earth Objects, NEOs）の発見とその軌道決定です。地球近傍天体は、その軌道が地球の軌道と交差する可能性があるため、潜在的な衝突リスクを評価する上で極めて重要視されています。MLSは、これらのリスクの高い天体の発見において特に貢献しています。

中でも、MLSは小惑星の発見数において世界で最も実績のあるプロジェクトの一つです。小惑星センター（Minor Planet Center, MPC）には、MLSによって発見され、正式に登録された小惑星が5万個以上に上ります。これは、単一の観測プロジェクトによる発見数としては世界最多であり、太陽系内の小天体の多様性や分布に関する貴重な情報源となっています。この膨大な数の発見は、サーベイの効率性と観測地の条件の良さを示しています。

レモン山サーベイの歴史の中で、いくつかの特筆すべき発見が記録されています。例えば、2008年10月7日には、イタリアの天文学者アンドレア・ボアッティーニ氏が、長い間見失われていた周期彗星、206P/バーナード・ボアッティーニ彗星を偶然再発見しました。この彗星は、1892年10月13日にエドワード・エマーソン・バーナードによって、天体写真を用いて初めて発見された彗星としても歴史的に重要です。その後、約20回の太陽系公転を経ていましたが、その間は観測されていませんでした。過去には木星に比較的接近した時期（1922年、1934年、2005年に0.3～0.4天文単位以内を通過）もあったにも関わらず、再発見には至っていませんでした。

また、火星の軌道上で、惑星と太陽の重力が安定したバランスを保つラグランジュ点L5に位置するトロヤ群小惑星、2011 UN63も、MLSによって2009年9月27日に発見されました。トロヤ群小惑星は、惑星の形成や進化の過程を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。

さらに、2012年3月31日には、アテン群に属する小惑星2012 FC71が発見されました。この小惑星は、その後の軌道解析によって、いわゆる「冷たい」古在メカニズムという、特定の軌道共鳴によって軌道要素が大きく変動する特異な力学特性を持つことが明らかになりました。このような珍しい軌道を持つ天体の発見は、太陽系内の天体力学の研究において重要な知見をもたらしています。

これらの事例は、レモン山サーベイが地球近傍天体だけでなく、太陽系内の多様な小天体の発見とその特性の解明においても大きな貢献を果たしていることを示しています。継続的な観測活動により、太陽系に関する我々の理解を深める上で中心的な役割を担っています。

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