レルマ公騎馬像

『レルマ公騎馬像』は、フランドルのバロック期を代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンスが1603年に制作した肖像画です。この作品は、初代レルマ公爵フランシスコ・ゴメス・デ・サンドバルを描いており、ルーベンスの初期における重要な作品の一つとされています。


この絵画は、もともとレルマ公の所有でしたが、彼の失脚後にスペイン王室のコレクションに加えられました。その後、フェリペ4世によってカスティーリャ提督に贈られ、いくつかの所有者を経て、1969年からはマドリードのプラド美術館に所蔵されています。


作品の特徴

騎馬像は、古代ローマ皇帝の肖像彫刻に由来する形式で、ルネサンス期に復活し、彫刻だけでなく絵画にも取り入れられるようになりました。正面から捉えた騎馬像は、物語画や肖像版画では見られましたが、独立した絵画の肖像としてはルーベンスのこの作品が先駆けとされています。この作品は、ルネサンス以来の絵画と彫刻の比較論を背景に、騎馬像彫刻の立体的な効果を絵画で表現しようとしたのではないかと考えられています。


ルーベンスは、1603年にマントヴァ公の使節としてスペインを訪れた際に、レルマ公からこの騎馬像の制作を依頼されました。当時、レルマ公はフェリペ3世の寵臣であり、スペイン王国の実質的な支配者でした。絵画の中で、レルマ公はスペイン軍の指揮官として描かれており、鎧を半身にまとい、白馬に乗り、指揮棒を手にしています。彼の首には、サンティアゴ騎士団の徽章がかけられています。背景には騎馬戦闘の場面が描かれ、作品の軍事的な色彩を強調しています。


この作品は、ルーベンスの初期の肖像画に見られる力強さに加え、モデルの人間性を捉える才能を示しています。レルマ公の姿には、尊大さと誇り高い人格が表れており、作品の構図は、ティツィアーノの『カール5世騎馬像』や古代彫刻の影響を受けていますが、ルーベンスは公爵が鑑賞者に向かって前進してくるように描いています。これは、絵画空間と現実空間を結びつけようとするバロック絵画の特徴の一つです。また、人物像を縁取るようにヤシの木を描くことで、バロック的な効果を創造しています。この肖像画は、アンソニー・ヴァン・ダイクやガスパール・デ・クライエルなど、後世の画家たちに大きな影響を与えました。


作品の影響

『レルマ公騎馬像』は、その革新的な構図と表現力によって、後世の騎馬像の制作に大きな影響を与えました。ルーベンスのこの作品は、単なる肖像画としてだけでなく、バロック絵画の重要な一例として、美術史において高く評価されています。


この作品は、ルーベンスの才能と、当時のスペイン宮廷の状況を理解する上で貴重な資料であり、現在もプラド美術館で多くの人々を魅了しています。

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