ロイグ・マク・リアンガヴラ

ロイグ・マク・リアンガヴラ：クー・フランの御者

ロイグ・マク・リアンガヴラ（アイルランド語: Loeg Mac Riangabra）は、アイルランドの英雄叙事詩『アルスター伝説』に登場する人物です。「ロイグ」という名前は「子牛」を意味し、彼はクー・フランの御者として、また「御者の王」として知られています。

人物像

ロイグは、物語「エウェルへの求婚」でその容姿が詳しく描写されています。それによると、彼は非常にスレンダーで、明るい赤毛にそばかすのある男性でした。

アルスター物語群におけるロイグ

ロイグは、クー・フランの愛馬である「リアト・マハ（マハの灰色）」と「ドゥヴ・サングレン（サングレンの黒毛）」の二頭立ての戦車を操る卓越した御者でした。彼は単に手綱捌きに長けていただけでなく、超自然的な力も持ち合わせており、魔法を使って戦車を見えなくすることも可能でした。クー・フランの冒険において、ロイグは単なる従者ではなく、信頼できる相棒として幾度となく友の危機を救いました。

しかし、ロイグの物語は悲劇的な結末を迎えます。物語「クー・フランの死」では、無敵を誇ったクー・フランが、彼を逆恨みする者たちの策略と魔術によってゲッシュ（禁忌）を犯し、命を落とす様子が描かれています。当時のアイルランドには、詩人に対して惜しみない施しをするという掟がありましたが、カリブレの息子エルクは、この掟を逆手に取り、クー・フランから槍を奪うことに成功します。そして、クー・ロイの息子ルガズは「王はこの槍で落つる」と叫びながら、クー・フランの戦車に槍を投げつけ、その槍は不幸にもロイグを貫きます。ロイグは「傷を負った」と言い残し、最愛の主に看取られながら息絶えました。彼の死は、クー・フランにとって計り知れない痛手であったことは想像に難くありません。

その他の説話

アイルランド語による初期の散文「クー・フランの幽霊戦車（シアヴルハルバド・コン・クリン）」にも、ロイグが登場します。この物語は、聖パトリックによって蘇ったクー・フランが、タラの王ライガレ・マク・クリウサンをキリスト教に改宗させようとする内容ですが、ロイグも共に現れることから、二人が死後も深く結びついていることが示唆されています。

それは戦車の幻だった。そして灰色と黒色の馬が、足並みを揃えて戦車を曳いていた。その戦車の中には、有名な二人が乗っていた。すなわちクフーリンとその御者とが乗っていた。二人は、とても大きく見えた。巨人のように見えた。そして世にも稀な立派な武器をもって身を固めていた。

>—八住利雄,『世界神話伝説大系〈41〉アイルランドの神話伝説』, P294～P295

ロイグ・マク・リアンガヴラは、単なる御者という役割を超え、クー・フランの冒険を支え、彼の最期に立ち会った重要な人物でした。彼の存在は、友情や忠誠心の深さを物語る上で欠かせない要素と言えるでしょう。

参考文献

木村正俊, 松村賢一『ケルト文化事典』東京堂出版、2017年。ISBN 978-4490108903。
キアラン・カーソン 著、栩木伸明 訳『トーイン クアルンゲの牛捕り』東京創元社、2011年。ISBN 978-4488016517。
ミランダ・J・グリーン 著、井村君江, 渡辺充子, 大橋篤子, 北川佳奈 訳『ケルト神話・伝説辞典』東京書籍、2006年。ISBN 978-4487761722。
八住利雄『世界神話伝説大系〈41〉アイルランドの神話伝説』名著普及会、1981年。ISBN 9784895512916。

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