ロイト (自動車)

ロイト：ドイツの自動車ブランド、その栄光と挫折

ロイト(Lloyd)は、1908年、ドイツで誕生した自動車ブランドです。その起源は「Norddeutsche Automobil und Motoren GmbH」という会社に遡り、後にメーカー名としても広く知られるようになりました。同社は、現在も存在する巨大な海運会社ハパックロイドの前身である北ドイツ・ロイド海運会社の子会社として設立され、ドイツのブレーメンに工場を構えていました。なお、イギリスに存在した同名の自動車メーカーとは全く関係ありません。

黎明期とハンザとの合併 (1908-1929年)

ロイトは当初、Kriéger電気[自動車]]のライセンス生産からスタートしました。しかし、創業翌年には3685ccのガソリンエンジンを搭載したモデルも登場させ、技術開発に積極的な姿勢を見せていました。1914年には、ハンザ(Hansa)という自動車メーカーと合併し、「Hansa-Lloyd Werke AG」を設立。合併後、乗用車の大半はハンザブランドで販売されることになり、ロイトブランドは商用車に主に使用されました。例外的に、6気筒4000ccの「Treff AS」と8気筒4600ccの「Trumpf AS」という高級乗用車は、ハンザ=ロイトの名で販売されました。その後、1929年にカール・[[ボルクヴァルト]によって買収されると、ロイトブランドは一旦歴史の表舞台から姿を消します。

戦後の復活と西ドイツ経済を支えた小型車 (1950-1961年)

1950年、ボルクヴァルト・グループ傘下に「Lloyd Motoren Werke GmbH」が設立され、ロイトの名が復活します。今回は、小型で低価格な乗用車および商用車ブランドとして再出発しました。初期のモデルである「ロイトLP300」は、木製の骨組みに布を張った簡素な車体でしたが、1954年に登場した「ロイトLP400」ではスチール製車体へと進化。さらに、旧軽自動車免許（250cc以上の車は運転できない）保持者をターゲットにした「ロイト250」（11馬力）も製造されました。

第二次世界大戦後の西ドイツは疲弊しており、国民の多くは安価で実用的な自動車を必要としていました。ロイト車は、そのニーズに完璧に合致する存在でした。前輪駆動方式を採用することで、同時代の車種と比較して快適性と信頼性を高めていたことも、人気の理由の一つです。1950年代には、フォルクスワーゲンとオペルに次ぐ西ドイツ国内第3位の販売台数を記録するなど、大きな成功を収めました。

日本への影響

ロイトLP400は、日本にも輸入され、鈴木自動車工業株式会社（現在のスズキ）が開発した最初の乗用車「スズライト」(1955年)の設計に大きな影響を与えたと言われています。さらに、富士重工業（現在のSUBARU）も、1958年に発表した「スバル360」の開発において、LP400のパワーユニットをテスト用に使用した記録が残っています。ロイト車は、日本の軽自動車開発の歴史に重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

上級車への挑戦と終焉

1959年には、水平対向4気筒エンジンを搭載した前輪駆動モデル「アラベラ」を発表。西ドイツ経済の成長を背景に、より上級クラスの市場を目指しましたが、エンジンやトランスミッションの初期トラブルが頻発し、販売は思うように伸びませんでした。

1961年、ボルクヴァルト・グループが経営破綻し、ロイトブランドは再び歴史から姿を消しました。「アラベラ」だけは「ボルクヴァルト・アラベラ」として1963年まで生産が続けられました。

主なロイト各車の生産台数は以下の通りです。

300系：18,087台
400系：109,878台
250系：3,768台
600及びアレクサンダー系：176,524台
* アラベラ系：47,549台

ロイトの歴史は、戦後の西ドイツの経済復興と日本の自動車産業の発展という、二つの大きな流れと深く関わっていました。その短いながらも輝かしい歴史は、自動車史に重要な一ページを刻んでいます。

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