ロクリス

中央ギリシャの一角を占めた古代ロクリス地方は、その地理によって東西に大きく区分されていました。

東側はエウボイア島と向き合う沿岸部に位置し、ロクリス・オプンティアと呼ばれていました。一方、西側はコリントス湾に面しており、ロクリス・オゾリスとして知られています。この地方全体の主要な中心都市はオプースでした。

初期とその分離

歴史を遡ると、当初「ロクリス」という名称で知られていたのは、主にエウボイア島対岸に位置する東部地域のみでした。この地に居住していた人々はロクリス人、あるいはロクロイ人と呼ばれ、ホメロスによる古代ギリシャの叙事詩『イーリアス』にもその名が見られます。彼らは、オイレウス王の子である勇士小アイアースに率いられ、トロイア戦争においてギリシャ連合軍の一員として戦ったと記されています。

一方、当時、後のロクリス・オゾリスとなる西部のコリントス湾側地域は、ポキスという別の名で呼ばれていました。ここに住んでいたポキス人もまた、『イーリアス』に登場し、ギリシャ連合軍の一角を担っていました。この時代のロクリスとポキスは、地理的にも政治的にも異なる集団として認識されていたようです。

植民と法制度の発展

ロクリス人の活動はギリシャ本土に留まりませんでした。紀元前7世紀初頭にあたる紀元前680年頃、彼らは遠くイタリア半島南部にまで進出し、新たな居住地を求めました。そして、現在のイタリア・ロクリにあたる地に、ギリシャ人としては初めてとなる組織的な植民市を建設しました。この植民市は、ロクロイ・エピゼフュリオイと名付けられ、本土からの移住者によって発展しました。

ロクロイ・エピゼフュリオイは、ただの植民地にとどまらず、古代ギリシャ社会において画期的な業績を成し遂げます。紀元前660年頃、この都市は、古代ギリシャ世界で初めてとなる成文法典を制定したのです。これは、口承や慣習に依存していた従来の法体系から、明確な文字による法規範への移行を示すものであり、その後のギリシャ世界の法思想や政治制度に大きな影響を与えたと考えられています。この法典はザレウコスによって編纂されたと伝えられています。

東西の統合とその後の対立

時が下るにつれて、西部のポキス地方から人々が東部ロクリス地域に移動したり、あるいは侵入したりする出来事が発生しました。これにより、東部ロクリスの住民と西部ポキスからの移住者の集団が混ざり合い、次第に彼らは「ロクリス人」という広義の枠組みの中で統合されていきました。

かつて別の集団であった両地域の住民は、この統合を通じて同等の権利を持つロクリス人として認識されるようになり、東西それぞれの地域に分かれて生活を営むようになりました。これにより、中央ギリシャのこの地域は、地理的な区分であるロクリス・オプンティア（東）とロクリス・オゾリス（西）に対応する形で、広義のロクリス人の居住地として定着します。

しかし、この地域内での統合が必ずしも平和な関係を保証したわけではありませんでした。古代ギリシャ世界全体を巻き込んだ大規模な紛争であるペロポネソス戦争（紀元前431年-紀元前404年）においては、この東西に分かれたロクリス人が、皮肉にも敵対する陣営につくことになりました。東部のオプンティア人はアテナイを盟主とするデロス同盟側に加わり、西部のオゾリス人はスパルタを盟主とするペロポス同盟側に組しました。同じロクリス人の名を冠しながらも、彼らはこの大戦において互いに戦火を交えるという複雑な歴史をたどったのです。

このように、古代ロクリスは単一の歴史を持つ地域ではなく、東西で異なる起源と歩みを持ちながら、叙事詩の時代、海外への植民と法制度の革新、そして地域内の統合とそれを超えた大規模な戦争での対立という、多様でダイナミックな軌跡をたどった地方でした。その歴史は、古代ギリシャ世界の複雑な様相を象徴しています。

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