ロジェ・ブトリ

ロジェ・ブトリ（Roger Boutry）は、1932年2月27日にパリで生まれ、2019年9月7日にこの世を去ったフランスの多才な音楽家です。作曲家、指揮者、ピアニスト、そして音楽学者として、彼は20世紀後半から21世紀初頭にかけてのフランス音楽界で重要な足跡を残しました。

音楽家の家庭に育ったブトリは、幼い頃から音楽に親しみ、パリ音楽院で学ぶ機会を得ました。彼はこの名門校で、ナディア・ブーランジェ、マルグリット・ロン、トニー・オーバンといった錚々たる師たちに師事し、驚異的な才能を発揮します。ソルフェージュ、ピアノ、室内楽、和声、フーガ作曲法、対位法、伴奏、作曲、指揮といった多岐にわたる分野で首席（プルミエ・プリ）を獲得するという、類稀なる音楽的基礎と技術を身につけました。

作曲家としての才能は早くから認められ、1954年にはパリ音楽院で作曲の首席を獲得すると同時に、その作品である「ピアノと16の管楽器のための幻想曲」でローマ大賞を受賞しました。この受賞は、彼のその後のキャリアを決定づける大きな一歩となりました。

音楽教育者としても優れた手腕を発揮し、1962年には母校であるパリ音楽院の和声科教授に就任し、後進の指導にあたりました。また、その功績に対し、1963年のパリ市音楽大賞、1967年のフランス学士院ジョルジュ・ビゼー賞など、数々の栄誉が贈られました。さらに、1988年にはフランスの最高勲章であるレジオンドヌール勲章、1989年には「今年の名士」勲章を受章するなど、国家的な評価も得ています。

彼のキャリアにおけるもう一つの重要な側面は、指揮者としての活動です。特に、1973年から1997年までの長期にわたり、ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団の首席指揮者を務めたことは特筆されます。彼はこのポストに就いた最初の民間人であり、この期間中にフランスの軍楽隊組織の構造改革や演奏水準の向上に大きく貢献しました。この活動は、軍隊という伝統的な組織に新しい風を吹き込む画期的な試みでした。

国際的な活動も積極的に行い、日本にも深い関わりがありました。特に、彼の吹奏楽編曲作品は日本国内で広く演奏されており、モーリス・ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲の編曲などは、日本の吹奏楽界で定番とも言える存在です。また、2009年から2010年にかけては、オーケストラ・アンサンブル金沢のコンポーザー・イン・レジデンス（常駐作曲家）を務めるなど、日本のオーケストラとの交流もありました。

ブトリは、管弦楽、吹奏楽、舞台音楽、室内楽、ピアノ独奏曲など、非常に幅広いジャンルにわたる作品を残しています。彼の作品は、洗練されたオーケストレーションや楽器の特性を深く理解した書法が特徴的です。代表的な作品には、初期のローマ大賞受賞作である「ピアノと16の管楽器のための幻想曲」や、数多くの吹奏楽曲（「道化」「平和への道」「生きる歓び」など）、そして様々な楽器のための室内楽曲（「ヴァイオリンソナタ」「トロンボーン四重奏曲」「アルト・サクソフォンのためのセレナーデ」など）があります。特に吹奏楽分野においては、オリジナルの作品と管弦楽作品の編曲の両方で、そのレパートリー充実に大きく貢献しました。

ロジェ・ブトリは、作曲、指揮、演奏、教育、そして音楽行政といった多岐にわたる分野で優れた能力を発揮し、フランスのみならず世界の音楽界に影響を与えた音楽家でした。特に吹奏楽分野における彼の貢献は、多くの演奏家や聴衆に記憶されています。

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