ロジャー&ミー

『ロジャー＆ミー』

『ロジャー＆ミー』（Roger & Me）は、1989年に公開されたマイケル・ムーア監督によるアメリカのドキュメンタリー映画です。この作品は、ミシガン州フリントを舞台に、ゼネラルモーターズ（GM）の工場閉鎖とそれに続くリストラがもたらした影響を深く掘り下げています。ムーアは自らの故郷であるフリント市が直面する危機をリアルに捉え、街の人々の生活を通じて悲劇を描写します。

あらすじ

映画は、GMの縮小政策によって困窮するフリント市の様子を追います。かつては自動車産業で栄えたこの街は、工場の閉鎖によりその活気を失い、人口15万人のうち3万人もの市民が直接的な影響を受けました。ムーアは、カメラを手に、工場の撤退に抗う人々の姿を捉えようとし、この街がどのように変化していくのかを追い続けます。

閉鎖を受けて、地域の経済は急速に悪化し、かつて活気に満ちていたフリント市はゴーストタウンとしての側面を見せ始めます。多くの人々が失業し、生活は困窮し、路上での生活を余儀なくされる家庭も増えました。ある女性は、自らの生活を支えるために、庭で食用ウサギを飼育し販売するという選択をします。このような光景は、経済的な悪化がもたらす苦しみの象徴として映し出されます。

さらに、町興しの試みも空回りし、GM発祥の地であるフリントに自動車テーマパークを建設する計画も、地域の人々の自信を回復させるには至りませんでした。崩壊する経済の中で、元々は中流階級だった多くの市民が貧困層に転落していく様子は痛ましいものでした。

富裕層の無関心

一方で、わずかな富を持つ市民たちは、もはや街の現実に目を向けることなく、贅沢なホームパーティーを楽しんでいました。彼らは、貧困層の住民を「無言のオブジェ」として雇い入れ、平然とした態度で選民意識を味わうという冷酷な現実を映し出します。その中には、GMの撤退を「18世紀の産業革命に匹敵する芸術的決断」と冗談交じりに語る者もいれば、フリント市の問題を一面的なものとして捉える意見もありました。

ムーアは、このような不条理な現実に怒りを抱き、GMの会長ロジャー・スミスにアポなし取材を繰り返し試みます。しかし、彼の声はなかなか届かず、フリント市の人々の苦境を世の中に伝えることの難しさが浮き彫りになります。

結末とその後

このすべては、後にGMが経営破綻する2009年の衝撃的なニュースにつながります。ムーアは、このニュースに対し「喜びでいっぱいだ」とのコメントを残し、企業の行動がもたらした深刻な影響を再認識することになりました。『ロジャー＆ミー』は、経済的利益追求がもたらす人々の苦しみを描いた感動的な作品であり、ドキュメンタリー映画の金字塔とも言える位置づけを確立しています。

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