ロックパイル

ロックパイル（Rockpile）

1970年代後半から1980年代初頭にかけてイギリスの音楽シーンを彩ったロックバンド、ロックパイル。その中心を担ったのは、ブリティッシュ・ロック界で既に名を馳せていたデイヴ・エドモンズ（ボーカル、ギター）と、プロデューサーとしても頭角を現し始めていたニック・ロウ（ボーカル、ベース）という、二人の強力な個性の持ち主でした。彼らに、凄腕のリズムセクションであるテリー・ウィリアムズ（ドラムス）と、もう一人のギタリスト兼ボーカリスト、ビリー・ブレムナーが加わった4人組です。

彼らのサウンドは、1950年代のロカビリーやロックンロールへの深い愛情を基盤としながらも、シャープなポップ・センスとパンク以降の初期衝動を感じさせるエネルギーを兼ね備えていました。そのタイトでパワフルな演奏は、パブロックやニューウェイブといった当時の音楽シーンに大きな影響を与え、後のパワー・ポップの礎の一つとも評されています。

ロックパイルというバンドの最大の特徴は、彼らが「ロックパイル」名義で公式に発表したスタジオ・アルバムが、1980年の『セカンズ・オブ・プレジャー』（Seconds of Pleasure）ただ一枚に留まっているという点です。しかし、これは彼らの活動の全てを物語るものではありません。実際には、デイヴ・エドモンズやニック・ロウのソロ・アルバムとしてリリースされた作品の中に、この4人のメンバーが一丸となってレコーディングした、実質的な「ロックパイル」のアルバムが数多く存在するのです。また、彼らは自身の活動と並行して、ミッキー・ジャップやジョニー・キャッシュの娘であるカーリーン・カーターといったアーティストたちのバックバンドとしてもその卓越した演奏力を提供しました。

バンドの結成に至る経緯は、デイヴ・エドモンズのソロ活動に端を発します。1970年に彼のソロ・アルバム『ロックパイル』が発表され、そのプロモーション・ツアーのメンバーにテリー・ウィリアムズが参加しました。これが「ロックパイル」という名称が初めて公に用いられた機会となります。その後、エドモンズは自身がプロデュースを手掛けたパブロック・バンド、ブリンズリー・シュウォーツのメンバーであったニック・ロウと出会います。互いの音楽性やプロデュース能力を認め合った二人は、シュウォーツ解散後に共同での音楽制作へと発展させていきました。

ニック・ロウは、ブリンズリー・シュウォーツの元マネージャーらが設立した、当時新進気鋭のインディーレーベル、スティッフ・レコードの第一号契約アーティストとなります。ロウはエドモンズとの共同作業で生まれた楽曲を自身のソロ名義で発表しますが、エドモンズは当時のスティッフ・レコードとの関係が思わしくなかったため、レッド・ツェッペリンが設立したスワン・ソング・レコードとソロ契約を結びます。これにより、ロックパイルというバンドの二人の柱が、異なるレコード会社に所属するという特異な状況が生まれることになります。

このレーベル間の制約がありながらも、ロウ、ウィリアムズと共にエドモンズのソロ・アルバム『ゲット・イット』を制作した後、ビリー・ブレムナーが正式に加入し、4人体制のロックパイルが完成します。彼らはこの布陣で精力的にライブ活動を開始し、その圧倒的な演奏力で評価を高めていきました。そして、実質的なロックパイルの作品として、1978年にはロウのソロ・デビュー・アルバム『ジーザス・オブ・クール』やエドモンズの『トラックス・オン・ワックス4』がリリースされます。1979年には、エドモンズの『リピート・ホエン・ネセサリー』、ロウの『レイバー・オブ・ラスト』と、彼らのタイトなアンサンブルが遺憾なく発揮された重要なアルバムが立て続けに発表され、それぞれから「ガールズ・トーク」、「恋するふたり」といったヒット曲も生まれました。同年年末には、オールスターが集結したカンボジア難民救済コンサートにも出演し、その存在感を改めて示しました。

デイヴ・エドモンズのスワン・ソングとの契約が終了したことにより、ロックパイルは満を持してバンド名義での公式アルバムをリリースする機会を得ます。1980年10月に発表された『セカンズ・オブ・プレジャー』は、ロックパイル唯一のスタジオ・アルバムであり、デイヴ・エドモンズ、ニック・ロウに加え、ビリー・ブレムナーもリード・ボーカルをとるなど、バンドとしての集大成とも言える作品となりました。

しかし、『セカンズ・オブ・プレジャー』発表前後から、バンドの核であったロウとエドモンズという二人のフロントマンの間には、次第に個人的な軋轢や音楽的な方向性の違いによる緊張が生じ始めます。かつては強力なパートナーであった二人の関係は修復不可能な状況に陥り、結果としてロックパイルは1981年、そのわずか数年間の活動に終止符を打ち、惜しまれつつ解散しました。

短い活動期間と独特のリリース形態にも関わらず、ロックパイルがブリティッシュ・ロック史に残した足跡は大きいと言えます。彼らのタイトなバンド・サウンド、卓越したソングライティング、そしてロカビリーやポップをモダンなサウンドへと昇華させたスタイルは、多くの後進アーティストに影響を与え、今なお色褪せることなく輝きを放っています。

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