ロック・ロブスター

ロック・ロブスター (Rock Lobster)

「ロック・ロブスター」は、アメリカ合衆国のニュー・ウェイヴ・バンド、The B-52'sが1978年に発表した楽曲です。その斬新なサウンドと個性的なボーカル・スタイルで、バンド初期の代表曲として広く認知されています。特に、米音楽誌ローリング・ストーンが選定した「オールタイム・グレイテスト・ソング500」の2010年版では147位に位置づけられており、その音楽史における重要性が示されています。

制作と初期リリース

バンドにとって初めて公式に録音・発表された「ロック・ロブスター」は、メンバーであるフレッド・シュナイダーとリッキー・ウィルソンの共作です。楽曲の誕生は1978年2月に遡ります。アトランタのマウンテン・スタジオにて、彼らは極めて低予算での録音を敢行しました。その際の製作費はわずか700ドル程度だったと、所属レーベルのオーナーであったダニー・ベアードは後に語っています。使用された楽器の一つ、ケイト・ピアソンのファルフィッサ・オルガンは、鍵盤の一つが音が出ない状態だったという逸話も残っています。録音された楽曲は、同年4月にアトランタのインディーズ・レーベル、DBレコードからシングルとしてリリースされました。B面には「52ガールズ」が収められています。

成功への道

当初は地元のインディーズからのリリースでしたが、このユニークな楽曲は次第に密かな人気を獲得し始めました。これを追い風に、The B-52'sはニューヨークの伝説的なライブハウス、例えばCBGBやMax's Kansas Cityといった場所で演奏する機会を得るようになります。彼らのライブ・パフォーマンスは評判を呼び、徐々にその存在を知らしめていきました。この成功が、1979年の大手レーベルであるワーナー・ブラザース・レコードとの契約へと繋がります。

メジャー契約後、バンドはアイランド・レコードの創設者であるクリス・ブラックウェルをプロデューサーに迎え、バハマのナッソーにてデビュー・アルバムのレコーディングを敢行しました。このアルバム『警告! THE B-52'S来襲』（原題: The B-52's）は、同年7月6日に発売されます。初期にインディーズでリリースされていた「ロック・ロブスター」とB面の「52ガールズ」も、このアルバム制作時に改めて録音し直され、収録されました。

シングル・リリースとチャート成績

デビュー・アルバムからのシングルとして再リリースされた「ロック・ロブスター」は、アルバム収録版よりも短く編集されており、収録時間は4分52秒でした。各国でリリースされたシングルのB面曲は地域によって異なりました。イギリスと西ドイツ盤では、ファースト・アルバムには未収録だった「Running Around」のインストゥルメンタル・バージョンが、日本盤（1979年12月発売）では「惑星クレア」がB面に採用されました。バンドの本国であるアメリカでは、1980年1月に「危険なナンバー6060-842」をB面に据えて発売されています。

このメジャー・リリース後、「ロック・ロブスター」は世界各国のチャートで成功を収めます。アメリカのビルボードHot 100では最高56位、イギリスで37位を記録。特にカナダでは1位、オーストラリアでは3位と、北米とオセアニアで大きな成功を収め、バンドの名を一躍世界に知らしめるきっかけとなりました。

楽曲の特徴とジョン・レノンへの影響

「ロック・ロブスター」の大きな特徴の一つは、シンディ・ウィルソンの独創的なボーカル、特に楽曲の後半で聞かれる耳に残る高音の叫び声のようなパートです。この歌唱スタイルは、オノ・ヨーコの音楽にインスピレーションを得たものであると、ウィルソン本人が後にインタビューで語っています。彼女は「私たちはビートルズとジョン・レノンの熱狂的なファンでした。そして、私は常にヨーコをとてもクールだと思っていました。この曲は、ヨーコと彼女の精神に捧げたものなのです」と述べています。

そして、この「ロック・ロブスター」は、偶然にもバミューダ諸島で息子ショーンと休暇を過ごしていたジョン・レノンの耳に届くこととなります。レノンはこの曲を聴き、そのサウンド、特にシンディ・ウィルソンのボーカルから、すぐにオノ・ヨーコの音楽に通じるものを感じ取ります。この体験が、彼にとって重要な転機となりました。「古い斧を持ち出して妻を目覚めさせる時が来た」と確信したレノンは、これを機に音楽活動への意欲を取り戻し、ヨーコと共に1980年4月からスタジオに入ります。こうして、後に名作となるアルバム『ダブル・ファンタジー』の制作に乗り出したのです。「ロック・ロブスター」は、The B-52'sの成功だけでなく、ジョン・レノンの音楽キャリアにおける重要な復活のきっかけとなった楽曲としても記憶されています。

演奏者

楽曲の録音に参加した主要メンバーは以下の通りです。

フレッド・シュナイダー - リード・ボーカル、カウベル
ケイト・ピアソン - バッキング・ボーカル、オルガン、シンセ・ベース
シンディ・ウィルソン - バッキング・ボーカル、タンバリン
リッキー・ウィルソン - ギター
* キース・ストリックランド - ドラムズ、パーカッション

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