ロッパの悲食記

『ロッパの悲食記』

古川ロッパによる『ロッパの悲食記』は、彼の最晩年に書かれた随筆集で、食に関する多彩なエピソードを収録しています。初版は1959年8月に学風書院より刊行され、その内容は全編にわたって食事にまつわるものです。この随筆集は、当時の食糧事情が悪化している日本の状況を背景に、ロッパ自身が独自の視点で描く「食」の世界を深く知ることができます。

構成と内容

『ロッパの悲食記』は三部構成になっており、それぞれ異なる視点から食の重要性とロッパの思い出を語っています。第一部には「悲食記　昭和十九年の日記抄」が含まれており、大戦末期の厳しい食糧事情の中で、食にこだわるロッパの苦闘や悲しみが色濃く表現されています。この時期の彼は、良い食事を求めて奔走し、その日常や不満を率直に描いています。また、農村からの食糧調達や闇の食材に関する記述は、戦時中の生活が垣間見える貴重な素材です。

第二部「食談あれこれ」では、ロッパの想い出や各料理についての知識が語られています。彼の食への情熱は、和食から洋食、中華料理にまで及び、大阪や神戸、名古屋の名物についての話や、富士屋ホテルでの贅沢な食体験が具体的に綴られています。ロッパ自身の好物や苦手な料理に関するエピソードもあり、彼の個性を知る手がかりとなっています。この柔らかな文体は戦後の食糧事情が改善された時代を反映しており、余裕を持って食を楽しむ様子が描かれています。

第三部「食日記」では、昭和三十三年の日記が再編集されており、彼の食べ物への探求心が衰えていない様子を確認することができます。病に苦しむ一方で、美食を求めて探し続けるロッパの姿は、彼の強い意志を感じさせます。この部分に関しても、小林信彦が「壮烈さが珍しい」と評するように、食に対する情熱が引き継がれている様子が印象的です。

発刊とその後

『ロッパの悲食記』はその初版以来、1983年と1995年に再版され、今日でも多くの人に読まれ続けています。その内容は、ただの食の記録ではなく、戦時下、戦後の日本社会と文化の中で、食がいかに重要であったかを教えてくれます。ロッパの食に対する情熱や思索は、料理や食文化を愛する人々にとって、静かに響く貴重なメッセージとなっています。この作品は、ただの食の随筆集を超え、生活の一部である「食」に対する哲学的な考察ともいえるでしょう。

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