ロトとその娘たち (クラナッハの絵画)

ルーカス・クラナッハ（父）の工房によって1528年に制作された油彩画『ロトとその娘たち』は、旧約聖書「創世記」に記されたロトの物語を主題としています。この作品は、ドイツ・ルネサンス期の画家クラナッハの工房が制作したもので、板に油彩で描かれています。画面左下には、クラナッハの署名である翼のあるヘビの徽章が見られます。この絵画は、かつてレオポルト・ヴィルヘルム・フォン・エスターライヒのコレクションに収蔵され、現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

クラナッハの工房は、『ロトとその娘たち』を複数制作しており、現存する約7点の作品は本作とわずかな違いしかありません。本作は、その中でも最も古い年記を持つ作品として知られています。

物語の背景

「創世記」によれば、ソドムとゴモラは悪徳と淫乱が蔓延した都市でした。ロトが住んでいたソドムでは男色が横行しており、神はこれらの都市を滅ぼすことを決定しました。アブラハムはロトを救うために神と交渉しますが、神はまず2人の天使をソドムに派遣して状況を確認しました。

ロトは天使たちを歓待し、天使たちは神がソドムを滅ぼすことを伝え、ロトとその家族に避難を促しました。天使たちは、脱出する際に後ろを振り返ってはならないと忠告しました。ロトの家族がソドムを去ると、神は硫黄と火を降らせてソドムとゴモラを焼き尽くしました。しかし、ロトの妻は禁を破って後ろを振り返り、塩の柱となってしまいました。ロトと2人の娘たちは、山中の洞窟に逃れて生き延びました。

絵画の構成

絵画の上部には、燃え盛るソドムの町が描かれています。その手前には、塩の柱と化したロトの妻が立っており、その左下にはロトと娘たちが逃げる様子が描かれています。画面手前では、娘たちが全人類が滅亡したと思い込み、ロトにワインを飲ませています。これは、娘たちが父親を酔わせ、近親相姦によって子孫を残そうとする場面です。

この物語は、当時の道徳観を反映しており、「女のたくらみ」というテーマと関連付けられます。また、クラナッハは、年齢の異なる男女が性的衝動に駆られる「不釣り合いなカップル」というテーマにも関心を示しており、本作もその一つと見ることができます。この絵では、老いたロトと若い娘たちの対比が描かれています。しかし、この絵画が最も強調しているのは、深酒への警告でしょう。クラナッハの友人であった宗教改革者マルティン・ルターも、過度な飲酒を戒めていました。

この作品は、単に聖書の物語を視覚化しただけでなく、当時の社会風刺や道徳的な教訓を盛り込んだ作品と言えるでしょう。クラナッハの工房によって描かれたこの絵画は、ルネサンス期の芸術的関心と道徳観を今に伝える重要な作品です。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行、ISBN 978-4-906908-18-9
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行、ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク
* 美術史美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『ロトとその娘たち』 (ドイツ語)

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