ロドリク・ブレースウェート

Sir Rodric Braithwaite卿は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍した、イギリスを代表する外交官の一人です。1932年生まれ。ケンブリッジ大学クライスツカレッジを卒業後、兵役を経て1955年にイギリス外務省に入省しました。

外務省在籍中は、インドネシア、イタリア、ポーランドと、冷戦下の緊張感が漂うソ連など、世界各地で外交官としてのキャリアを積みました。特に1988年から1992年にかけて務めたモスクワ大使としての経験は、彼の外交官としての経歴、ひいては作家としての活動においても、大きな転換点となりました。冷戦終結前夜のモスクワで、彼は東西の緊張関係、国際政治の複雑さを目の当たりにしたことでしょう。

モスクワ大使退任後も、イギリス政府の中枢で活躍を続けます。イギリス首相の外交政策顧問や合同情報委員会議長などを歴任し、外交、情報戦略の分野で重要な役割を担いました。1994年には聖マイケル・聖ジョージ勲章を授与され、その功績は高く評価されています。

ブレースウェイト卿は、外交官としての経験を活かし、ロシア史に関する数々の著作を発表しました。その著作は、歴史的事実の正確な記述と、外交官としての洞察に裏打ちされた分析が特徴です。単なる歴史記述にとどまらず、国際関係や政治情勢を理解する上で貴重な資料となっています。

代表的な著書として、『Across the Moscow River: the world turned upside down』（邦訳未刊行）、『Moscow 1941: a city and its people at war』（邦題『モスクワ攻防1941――戦時下の都市と住民』）、『Afgantsy: the Russians in Afghanistan 1979-89』（邦題『アフガン侵攻 1979-89』）などが挙げられます。『モスクワ攻防1941』では、第二次世界大戦下のモスクワ市民の生活や、ナチスドイツ軍の侵攻に対する抵抗の様子を克明に描写しています。一方、『アフガン侵攻 1979-89』では、ソ連軍のアフガニスタン侵攻とその影響を詳細に分析しています。これらの著作を通して、冷戦時代の国際情勢や、ロシア、アフガニスタンの歴史に対する深い理解を示しています。

彼の著作は、歴史研究者のみならず、国際関係に関心を持つ幅広い読者層に高く評価されており、ロシア史、冷戦史研究において重要な文献となっています。外交官としての豊富な経験と、歴史家としての厳格な姿勢を兼ね備えたブレースウェイト卿の著作は、現代においてもその価値を失うことなく、読み継がれています。

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