ロドリゴ・ドゥテルテ

ロドリゴ・ドゥテルテ：フィリピンを揺るがせたカリスマ政治家

ロドリゴ・ロア・ドゥテルテは、2016年から2022年までフィリピン大統領を務めた、同国を代表する政治家です。ダバオ市長として7期にわたる実績を持ち、強硬な姿勢とカリスマ性で知られています。彼の政治経歴は、複雑で物議を醸す出来事の連続でした。

波乱万丈の人生

1945年、レイテ島で生まれたドゥテルテは、法律家の父と教師の母のもと、裕福な家庭環境で育ちました。幼少期をダバオで過ごした彼は、10代の頃には非行に手を染め、刑務所にも収監された経験があります。自身も語っているように、16歳の時に人を刺殺した過去も持ちます。大学時代には銃撃事件を起こし、退学寸前にまで追い込まれています。このような経験が彼の政治姿勢に影響を与えたとも考えられます。

法科大学院卒業後、ダバオの検察官として約10年間勤務したのち、政界入りを果たします。彼の母方の祖父は福建省出身の華人であり、ドゥテルテ自身も中国語を理解できることを明かしています。タガログ語、ビサヤ語、英語を操り、ミンダナオ島では地元語で住民と語り合うなど、多様な文化への理解も示しています。

性的少数者に関する発言は一貫しておらず、自身の性的指向についても、元妻との出会いを境に変化したと主張しています。2019年には重症筋無力症を患っていることを公表しました。

ダバオ市長時代：強権と開発

1988年にダバオ市長に初当選し、その後も市長職を長く務めました。その間、ダバオ市は記録的な経済発展を遂げ、治安も著しく改善されました。タクシーのぼったくりがなくなるなど、具体的な成果も挙げられています。ダバオ観光局は、ダバオを「東南アジアで最も平和な都市」と宣伝するほどです。

しかし、その裏には「ダバオ・デス・スクワッド」と呼ばれる自警団の暗躍があり、人権団体から強い批判を浴びました。ドゥテルテ自身は関与を否定していますが、彼の暗黙の容認があったことは疑えません。市長時代には、自ら犯罪容疑者を殺害したと発言するなど、強権的な手法を辞さない姿勢も見せていました。

大統領選挙と就任：フィリピンのトランプ

2016年の大統領選挙では、当初不出馬を表明していましたが、後に立候補を表明。選挙戦では、当時のアメリカ大統領候補ドナルド・トランプになぞらえられ、「フィリピンのトランプ」と揶揄されました。過激な発言が目立ちましたが、当選後は発言を修正し始めました。

大統領就任式では国民に向け、「より良いフィリピンを作ろう」と呼びかけました。しかし、その後の彼の政策は、多くの論争を呼ぶことになります。

麻薬撲滅戦争：人権問題と国際批判

ドゥテルテは、大統領就任前から麻薬撲滅に強い姿勢を示し、就任後には「麻薬王を殺しても構わない」と公言しました。これは人権侵害に当たるとして、国内外から強い批判を浴びました。

就任直後から、麻薬関連容疑者の超法規的な殺害事件が急増し、国際連合やアムネスティ・インターナショナルから繰り返し警告を受けました。ドゥテルテはこれらの批判に反発し、国際連合脱退をほのめかす発言もしました。

国際関係：中国との接近とアメリカとの揺れる関係

ドゥテルテ政権下のフィリピンは、中国との関係強化を図りました。南シナ海問題では、中国との2国間協議を優先し、国際仲裁裁判所の判決を事実上無視する姿勢を見せました。中国からの経済支援を受け入れ、軍事協力を進めるなど、中国への接近は著しく、アメリカとの関係は冷え込みました。

一方、アメリカとの関係は複雑です。オバマ大統領を侮辱する発言をした一方で、トランプ大統領とは良好な関係を築きました。アメリカ軍の支援を受け入れながらも、米比地位協定の破棄も発表するなど、アメリカとの関係は一貫していませんでした。

日本とは良好な関係を維持し、経済協力やインフラ支援などにおいて深い信頼関係を築きました。東日本大震災の際には、いち早く被災者受け入れを表明するなど、親日的な姿勢を示しました。北朝鮮に対しては、強硬な姿勢を取り続けました。

2022年の引退

大統領の任期満了に伴い、2022年に大統領を退任。当初は副大統領選挙への立候補を検討していましたが、憲法違反の批判を受けて撤回し、政界引退を表明しました。

まとめ

ロドリゴ・ドゥテルテは、強権的な手法とカリスマ性でフィリピン政治に大きな影響を与えた人物です。彼の政策は賛否両論を巻き起こし、人権問題や国際関係においても多くの課題を残しました。彼の政治的遺産は、今後長きにわたって議論されることでしょう。

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