ロバの尻尾

「ロバの尻尾」（ロシア語: «Ослиный хвост»）は、20世紀初頭のロシアにおいて、美術家集団「ダイヤのジャック」から派生した、短命ながらも特異な足跡を残した美術グループです。グループの結成は、ミハイル・ラリオーノフを中心とする「ダイヤのジャック」の最左翼メンバーによるもので、同時代の立体未来主義運動からの強い影響を受けていました。

指導者であり、グループの命名者でもあるミハイル・ラリオーノフ、そして彼の妻であり芸術的パートナーでもあったナタリア・ゴンチャロワが中心となり、カジミール・マレーヴィチ、マルク・シャガール、アレクサンドル・シェフチェンコといった、後にロシア・アヴァンギャルドを代表する画家たちが同人として参加しました。彼らは、既成の美術概念にとらわれず、より革新的で実験的な表現を追求しました。

「ロバの尻尾」は、1912年にモスクワで最初で最後の展覧会を開催しました。この展覧会では、参加メンバーそれぞれの個性が際立つ作品が展示され、当時の美術界に大きな衝撃を与えました。しかし、グループとしての活動は短く、翌1913年には解散しています。解散の理由は定かではありませんが、メンバーそれぞれの芸術的探求の方向性の違いや、当時のロシアにおける政治的・社会的な変動などが影響したと考えられています。

解散後、「ロバの尻尾」は長らく美術史から忘れ去られていました。しかし、ニキータ・フルシチョフ時代の「『ロバの尻尾』事件」や、その後のロシア・アヴァンギャルド芸術の再評価の機運が高まるにつれて、再びその存在が注目されるようになりました。「『ロバの尻尾』事件」とは、フルシチョフが現代美術展を視察した際、「ロバの尻尾」の作品を見て激怒したとされる出来事で、これにより、かえってグループの名前が広く知られることとなりました。

「ロバの尻尾」は、短期間の活動ではありましたが、ロシア・アヴァンギャルドの黎明期において、重要な役割を果たしました。彼らの作品は、未来派やキュビスムといった西欧の芸術思潮を取り入れつつも、ロシア独自の文化や精神性を表現しようとするものでした。その革新的な試みは、後の世代の芸術家たちに大きな影響を与え、ロシア・アヴァンギャルドの発展に貢献しました。

関連事項として、ロシア・アヴァンギャルドは、20世紀初頭のロシアで展開された芸術運動の総称であり、絵画、彫刻、建築、演劇、文学など、幅広い分野に及びます。未来派、構成主義、絶対主義など、多様な潮流を含み、社会主義革命後の新しい社会の建設を目指す芸術家たちの実験精神を反映したものでした。

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