ダイヤのジャック

ダイヤのジャック（ロシア語: «Бубновый валет»）は、1909年にモスクワで結成された、ロシアの急進的な美術家集団です。グループ名は、1910年に開催された展覧会に向けて、事実上の指導者であったミハイル・ラリオーノフによって命名されました。その名前は、トランプのダイヤのジャックに由来し、既存の美術に対する挑戦的な姿勢を表しています。

歴史

1910年12月から1911年1月にかけて開催された「ダイヤのジャック」展は、グループの活動を広く知らしめる契機となりました。展覧会には、フランス人画家のアンドレ・ローテなど、海外の芸術家も参加し、アレクサンドル・メルセールが監修を務めました。

「ダイヤのジャック」の同人たちは、ポール・セザンヌを唯一の模範として仰ぎ、その他の画家や伝統的な美術を「ブルジョワ趣味」として批判しました。彼らは、既存の美術の価値観を覆し、新しい芸術の創造を目指しました。

主要な同人としては、ロベルト・ファリク、アリスタールフ・レントゥーロフ、イリヤ・マシュコフ、アレクサンドル・クプリン、ピョートル・コンチャロフスキーなどが挙げられます。これらの画家たちは、それぞれ独自のスタイルを持ちながらも、「ダイヤのジャック」の理念を共有し、ともに活動しました。

また、「第1回ダイヤのジャック展」の参加者の中には、ラリオーノフの他に、ナタリア・ゴンチャロワやカジミール・マレーヴィチといった、後に重要な美術家となった人物もいました。さらに、レオポルド・シュルヴァージュも、その後の活動において重要な役割を果たしました。

しかし、グループの規範意識を巡る内部対立が次第に表面化し、より急進的なメンバーは「ロバの尻尾」という新しいグループを結成しました。この分裂は、「ダイヤのジャック」の終焉を意味するとともに、ロシア・アヴァンギャルド運動の多様化を象徴する出来事となりました。

「ダイヤのジャック」は、短期間の活動ではありましたが、その後のロシア・アヴァンギャルド運動に大きな影響を与えました。彼らの反抗的な姿勢や、セザンヌから影響を受けた革新的な表現は、後の世代の芸術家たちに大きな刺激を与えました。このグループの活動は、20世紀初頭のロシア美術史において、重要な一章を刻んでいます。

脚注

グループ名の «Бубновый валет» は、ロシア語で「ダイヤのジャック」を意味します。
ポール・セザンヌは、ポスト印象派を代表するフランスの画家で、その革新的な表現は、多くの芸術家に影響を与えました。
「ロバの尻尾」は、ラリオーノフやゴンチャロワなどが中心となって結成された、さらに急進的な美術グループです。

関連項目

ロシア・アヴァンギャルド

もう一度検索