ロバート・グレーヴス

ロバート・グレーヴズ (1895-1985) は、20世紀を代表するイギリスの文豪の一人です。詩人、小説家、評論家として活躍し、その多才ぶりは、文学史に名を刻むに値するでしょう。彼の生涯は、激動の時代と密接に交錯し、その経験が作品に深く反映されています。

グレーヴズは、アングロ＝アイリッシュ系の詩人で数学者でもあった父と、ドイツ系牧師の父方の家系を持つ家庭に生まれました。ロンドン近郊で育ち、名門チャーターハウス・スクールを経て、オックスフォード大学への進学が予定されていました。しかし、第一次世界大戦の勃発により、その計画は頓挫します。愛国心と、ドイツによるベルギー侵攻への怒りから、グレーヴズは志願兵としてフランス戦線へと赴きました。

この戦争体験は、彼の人生に大きな影を落とします。最前線で重傷を負い、一時は死亡と報じられるほどでした。しかし、奇跡的に生還した彼は、戦場へ復帰するも再び負傷し、後方勤務に回ります。この間、詩人として活動を続け、反戦の詩作を通して、戦争の悲惨さを訴え続けました。

戦後、オックスフォード大学に入学したグレーヴズは、旺盛な創作意欲を爆発させます。7年間の在学中に、数々の詩集や詩論を発表。この頃には、エドマンド・ブランデンやT・E・ロレンスといった当時の著名な作家たちとも親交を深めました。卒業後は、カイロ大学で英文学教授を務めますが、まもなく辞任し、帰国します。

私生活では、妻との関係が悪化し、離婚。二度とイギリスに戻らない決意で、地中海のマヨルカ島に移住します。この地で、アメリカの女流詩人ローラ・ライディングと出会い、共同で出版業を経営したり、共著を発表するなど、創作活動の新たな局面を迎えます。

スペイン内戦勃発に伴い、マヨルカ島を離れることを余儀なくされたグレーヴズは、ヨーロッパとアメリカを転々とする生活を送ります。第二次世界大戦が始まると、イギリスへ帰国し兵役に就きますが、後方勤務を命じられ、最前線には立たないまま戦争を終えます。戦後はマヨルカ島に戻り、生涯を終えるまでこの地で暮らしました。

グレーヴズの作品は多岐に渡ります。初期の詩作から、戦争体験を反映した反戦詩、そしてローマ皇帝クラウディウスの視点から歴史を描く歴史小説『この私、クラウディウス』とその続編『神、クラウディウスとその妻メッサリーナ』など、その創作活動は多様性に富んでいます。彼の代表作の一つに挙げられるのが、ギリシア神話を詳細に解説した『ギリシア神話』です。この著作は、今日でも広く読まれ、神話研究の分野において高い評価を得ています。

また、自叙伝『さらば古きものよ』は、彼の生涯と思想を知る上で貴重な資料です。この作品は、戦争体験のみならず、彼の内面世界や、人々との関わり合い、そして創作活動への情熱などを率直に綴っており、読み応えがあります。

晩年には、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学で教鞭を執り、後進の育成にも尽力しました。ロバート・グレーヴズは、詩人、小説家、評論家、神話研究家として、文学史に大きな足跡を残した、まさに20世紀を代表する文豪と言えるでしょう。彼の作品は、今もなお多くの読者から愛され続け、その魅力は色褪せることがありません。

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