ロバート・ゴードン・ワッソン

ロバート・ゴードン・ワッソンの生涯と業績

ロバート・ゴードン・ワッソン（1898年9月22日 - 1986年12月23日）は、アメリカ合衆国で活動した作家、民族菌類学者、そしてJ.P.モルガン・アンド・カンパニーの副頭取であった。多岐にわたる研究を通じて、彼は民族植物学、植物学、人類学の領域に重要な貢献を果たした。彼の著作の一部は自費出版され、そのため再版されていないものも少なくない。

銀行家としての経歴

ワッソンは1928年にギャラントゥリー・トラスト・カンパニーで銀行業界に足を踏み入れ、1934年にはJ.P.モルガン・アンド・カンパニーに移籍した。彼は1943年には副頭取に昇進し、同年にはホール・カービン事件に関する著作を執筆。これは戦中の不当利益行為を問うもので、彼はその中でジョン・ピアポント・モルガンの潔白を証明しようとした。特に、彼は歴史家のアラン・ネヴィンズやチャールズ・マクリーン・アンドリュースとの関係を通じて、この事件におけるモルガンの役割について議論を引き起こした。

研究者であるジャン・アーヴィンは、ワッソンの銀行での仕事がモルガンに関する著書の執筆と利益相反にあたるのではないかと疑念を呈したが、ホール・カービン事件に関する議論は現在も続いている。

民族菌類学への道

民族菌類学に興味を持ったのは1927年のキャッツキル山地での新婚旅行がきっかけである。この旅行中に、彼の妻であるヴァレンティーナが天然の食用キノコを見つけたことが、彼らの研究の始まりとなった。特に、ロシアとアメリカにおけるキノコ文化の違いに強く惹かれ、二人は実地調査に乗り出すこととなる。1957年には『キノコ―ロシアの歴史』（未訳）を刊行し、その後メキシコの先住民によるキノコの宗教的利用について研究を進めた。彼はマサテコ族の儀式に初めて参加した西洋人とされ、その経験を記録している。

ワッソンは、治療のシャーマンのマリア・サビーナにキノコの使用法を教わり、彼女との関係も多くの議論を呼ぶこととなった。特に、ワッソンがサビーナの名前やその住居の情報を公開したことで、彼女は地域社会から村八分にされ、過酷な状況に置かれた。ワッソンは人類知識への寄与を目的にしていたが、その結果がサビーナに大きな影響を与えたことは否定できない。

向精神性キノコの普及

1957年5月には『ライフ』誌に「魔法のきのこを求めて」という記事が掲載され、向精神性のキノコの存在が広く知られるようになった。この影響により、アメリカでは意識の変容を求める運動が広まり、ビートニクやヒッピーを中心にマサテカの儀式への関心が高まった。しかし、その反動として、地元の共同体は外国人の訪問を警戒し、サビーナに対して厳しい目を向けるようになった。

植物学への貢献

ワッソンは植物学者ロジェ・エイムと共に、モエギタケ科やシビレタケ属の標本を整理・同定し、その成果は後にアルバート・ホフマンによって基礎研究へと繋がった。また、彼はサルビア・ディビノラムの初の西洋人の採取者であるが、厳格な科学研究には適さないとされている。彼に因んで命名されたキノコの種も存在する。

また、彼は古代ソーマに関する研究も行い、ベニテングタケが用いられていた可能性を提唱した。この仮説は1967年の著書『聖なるキノコソーマ』でまとめられ、さらに古代ギリシャのエレウシスに関する研究も行った。1978年には『エレウシスへの道』（未訳）を著し、そこで向精神性のエルゴリンアルカロイドに言及した。

最後の著書

ワッソンの最後の業績となる『驚くべきキノコ』（未訳）は2014年に再版され、彼の生涯と研究の集大成を示している。ワッソンの作品は、文化と科学、宗教が交差する場所を探求する貴重な資料として、多くの関心を集め続けている。

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