ロバート・ジャーヴィス

ロバート・ジャーヴィス（Robert Jervis、1940年4月30日 - 2021年12月9日）は、アメリカ合衆国を代表する国際政治学者の一人です。長年にわたり、国際関係論の研究に重要な貢献をしました。特に、心理学的な視点を国際政治の分析に取り入れたことで知られ、また、国際政治における主要な理論である防御的リアリズムの代表的な論者として広く認識されています。

生涯とキャリア

ジャーヴィス氏はオーバリン大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得しました。アカデミックなキャリアは、ハーヴァード大学での助教授および准教授職から始まりました。その後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）で教授を務めた後、1980年からはニューヨークにあるコロンビア大学の政治学部教授として、晩年まで研究と教育に情熱を注ぎました。

学問的貢献

ジャーヴィス氏の最も著名な貢献の一つは、心理学の知見を国際政治の分析に持ち込んだことです。彼の主著『国際政治における認知と誤認知』（Perception and Misperception in International Politics, 1976）は、このアプローチを体系的に示した画期的な作品です。国家の意思決定者や指導者が、いかに情報を認識し、誤解しうるか、そしてそれが国際関係にどのような影響を与えるかを深く掘り下げています。この研究は、冷戦期における米ソの相互認識の歪みなどを分析する上で強力なツールとなり、その後の国際関係論研究における認知、心理、組織論的要因の重要性を確立しました。

また、ジャーヴィス氏は防御的リアリズムの代表的な論者としても知られています。リアリズム理論は、国際社会を無政府状態と捉え、国家が自己の利益（特に安全保障）を追求すると考えますが、その中でも防御的リアリズムは、国家が最も重視するのは力の最大化ではなく、自国の安全保障であることを強調します。ジャーヴィス氏の見解によれば、国家は安全を確保できる手段があれば、国際社会が無政府状態にあっても、必ずしも戦争という手段を選ぶとは限りません。安全保障ジレンマのような問題においても、協調的な行動やシグナリングによってリスクを管理し、紛争を回避する可能性があることを示唆しました。

主な著作

ジャーヴィス氏は多岐にわたるテーマで数多くの著作を発表しており、それらは国際政治学の多くの分野に影響を与えています。主要な単著には以下のものがあります（一部は邦訳も出版されています）。

The Logic of Images in International Relations (1970)
Perception and Misperception in International Politics (1976) - 『国際政治における認知と誤認知』（2025年刊行予定）
The Illogic of American Nuclear Strategy (1984)
The Meaning of the Nuclear Revolution: Statecraft and the Prospect of Armageddon (1989) - 『核兵器が変えた軍事戦略と国際政治』（2024年刊行）
System Effects: Complexity in Political and Social Life (1997) - 『複雑性と国際政治』（2008年刊行）
American Foreign Policy in a New Era (2005)

この他にも、共著として『Psychology and Deterrence』（1985年）を発表しており、さらに多数の国際政治に関する重要な共編著にも携わっています。彼の著作は、国際関係論、安全保障研究、外交政策分析など、幅広い分野の研究者や学生にとって不可欠な文献となっています。

ロバート・ジャーヴィス氏は、その深い洞察力と革新的なアプローチによって、国際政治学の発展に計り知れない貢献を残しました。彼の研究は、現代の国際関係を理解する上で今なお大きな示唆を与え続けています。

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