ロバート・ファーチゴット

ロバート・フランシス・ファーチゴット（Robert Francis Furchgott）は、血管生理学における画期的な発見により、1998年にノーベル生理学・医学賞を受賞したアメリカ合衆国の著名な化学者です。1916年6月4日にサウスカロライナ州チャールストンで生を受け、2009年5月19日にその生涯を閉じました。彼の最も重要な功績は、血管内皮細胞が産生する物質が血管の弛緩を制御していることを明らかにし、その正体が一酸化窒素（NO）であることを突き止めたことです。この発見は、心血管疾患の理解と治療法開発に多大な影響を与えました。

ファーチゴット博士は、学問の道を究めるため、まずノースカロライナ大学チャペルヒル校で化学を専攻し、1937年に学士号を取得しました。その後、生化学の研究に進み、1940年にノースウェスタン大学で博士号を取得しています。研究者としてのキャリアは、1949年からセントルイス・ワシントン大学医学部で始まりました。そして、1956年からはニューヨーク州立大学医学部薬理学科の教授として教鞭をとり、1988年まで精力的に研究活動と教育に従事しました。

彼の代表的な研究は、1970年代後半に本格化しました。1978年、彼は血管を覆う内皮細胞が、血管の筋肉を弛緩させる働きを持つ未知の物質を放出していることを発見しました。彼はこの物質を「内皮由来弛緩因子（Endothelium-Derived Relaxing Factor, EDRF）」と名付けました。この発見は、当時の血管生理学の常識を覆すものでした。さらに、ファーチゴット博士はEDRFの性質とその作用機序の解明に挑み、精力的な研究を続けました。そして1986年までに、彼はEDRFの正体が、単純ながら生物学的に非常に重要な分子である一酸化窒素（NO）であることを確定的に突き止めました。この一酸化窒素が、心臓血管系の様々な生理的機能において中心的な役割を果たしていることが明らかになったのです。

ファーチゴット博士の革新的な科学的貢献は高く評価され、数々の栄誉に輝きました。前述の通り、一酸化窒素の信号伝達における役割に関する発見により、ルイ・イグナロ氏、フェリド・ムラド氏と共に、1998年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞しました。これに先立つ1991年にはガードナー国際賞を、1996年にはアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞しており、これらの権威ある賞も彼の業績の重要性を示しています。

私生活では、三人の子供に恵まれました。長年の研究生活を終えた晩年は、ニューヨーク州ブルックリン地区で静かに過ごしました。そして、2009年5月19日、92歳でシアトルにてその生涯を閉じました。ロバート・フランシス・ファーチゴット博士の研究は、現代医学、特に循環器分野における診断や治療法の発展に計り知れない貢献をもたらしました。

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