ロレンツォ・ディ・クレディの肖像

ピエトロ・ペルジーノ『ロレンツォ・ディ・クレディの肖像』

この肖像画は、盛期ルネサンスを代表する画家ピエトロ・ペルジーノが1488年に制作した油彩作品です。描かれているのは、同じくフィレンツェで活躍した画家、ロレンツォ・ディ・クレディと考えられています。現在はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されており、その高い芸術性が評価されています。

描かれた人物：ロレンツォ・ディ・クレディ

ロレンツォ・ディ・クレディは、フィレンツェで生まれ、画家、彫刻家として活動しました。1470年代初頭には、アンドレア・デル・ヴェロッキオの工房で修業を積みました。1480年にはヴェロッキオの工房で画家として活動していた記録が残っており、ヴェロッキオが亡くなる1488年まで師事しました。ヴェロッキオの死後、工房を引き継いだのはロレンツォ・ディ・クレディでした。

同僚には、この肖像画を描いたペルジーノや、若く才能あふれるレオナルド・ダ・ヴィンチがおり、特にレオナルド・ダ・ヴィンチからは強い影響を受けました。クレディの作品は技術的に優れていましたが、独創性に欠ける点や保守的な傾向があったと言われています。彼の作品は宗教的なものが多く、世俗的な作品は少ないですが、肖像画は人気がありました。

作品詳細

肖像画は、ロレンツォ・ディ・クレディを四分の三正面の胸像として描いています。彼は、細くくっきりとした顔立ちで、少し鷲鼻気味のまっすぐな鼻、茶色の瞳と濃く太い眉毛、突き出た顎、高い頬骨を持ち、口角が下向きのバラ色の厚い唇は、真剣でありながら憂鬱な表情を浮かべています。波打つ茶色の髪は首の後ろに流れ、つばのない黒い帽子をかぶり、ハイネックの黒いチュニックを着ています。

クレディは顎を上げ、顔を正面に向けずに、茶色の瞳の端で鑑賞者を見つめています。その視線は強く、悲しげでありながら、遠くを見ているようにも感じられます。板絵の裏側には「ロレンツォ・ディ・クレディ、最も優れた画家、1488年、32歳8か月」と記されており、ヴェロッキオが亡くなった年であることから、クレディの曇った表情は師の死によるものと考えられています。背景には草の茂る丘陵地帯と木々が生い茂る険しい岩山が描かれ、その向こうには霞んだ青い山々が広がっています。

ジョルジョ・ヴァザーリの『画家・彫刻家・建築家列伝』には、帽子をかぶって横を向いた年老いたロレンツォ・ディ・クレディの挿絵があり、この肖像画との間に類似性を認められます。

以前はロレンツォ・ディ・クレディの自画像とみなされていましたが、1932年に美術史家リチャード・オフナーによってペルジーノの作品である可能性が示唆されました。

1933年、肖像画の支持体は板からキャンバスに移し替えられました。板絵の裏側に記されていた銘文は、支持体が変更された際に保存されましたが、1965年に美術館の概要目録に関連した再調査が行われた際に消失しました。幸い当時撮影された写真が残されており、それによると銘文は肖像画と同じ時代のものではなく、おそらく16世紀のもので、一部がローマン・キャピタルとつなげ字で記されていたことが判明しています。

来歴

肖像画の初期の来歴は不明ですが、18世紀半ばまでフィレンツェの個人コレクションに属していたと考えられています。1895年以前にはローマにあり、その後、グラスゴーのウィリアム・ビーティの手に渡りました。1901年にビーティがロンドンで開かれた展覧会に貸し出したことで広く知られるようになり、1911年1月16日にフィラデルフィアの実業家・美術収集家ピーター・アレル・ブラウン・ワイドナーに売却されました。ワイドナーの死後、1942年に息子ジョーゼフ・E・ワイドナーによって、コレクションの一部としてナショナル・ギャラリー・オブ・アートに寄贈されました。

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