ロレートの聖母 (ペルジーノ)

概要

『聖母子と聖ヒエロニムス、聖フランシスコ』（通称『ロレートの聖母』）は、盛期ルネサンスを代表する画家ピエトロ・ペルジーノが、1507年から1515年頃に制作した油彩の祭壇画です。当初はペルージャのサンタ・マリア・デイ・セルヴィ教会に建てられた礼拝堂のために制作されましたが、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。この作品は、聖母マリアが幼子イエスを抱き、両脇に聖ヒエロニムスと聖フランシスコが配された構図で、信仰の対象としての聖母子の姿を荘厳に描いています。

制作経緯

この祭壇画は、ペルージャの大工ジョヴァンニ・スキャボーネが、自身の礼拝堂に飾るためにペルジーノに依頼しました。スキャボーネは遺言で工房の売却益を礼拝堂の建設費用に充てるよう指示し、当初は聖ヒエロニムスと聖フランシスコを伴う聖母子の壁画を依頼する予定でした。しかし、スキャボーネの死後、遺言執行者は壁画ではなく祭壇画を発注しました。

契約書には、「枢機卿としての聖ヒエロニムスと、聖痕を持つ聖フランシスコを伴い、ロレートの聖母のように息子と共に立つ聖母」を描くことが明記されています。「ロレートの聖母」とは、マルケ地方のロレートにあるサントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザ大聖堂に祀られている、黒い聖母像を指します。納期は4ヶ月後、使用する色彩は最高級のものとし、金の装飾を施し、ペルジーノ自身が制作することが条件でした。

作品詳細

ペルジーノは、幼子イエスを抱く黒衣の聖母マリアを画面中央に配置し、その両脇に聖ヒエロニムスと聖フランシスコを配しました。聖母は頭上に王冠を戴き、幼子イエスも同様に王冠を戴いています。画面上部では、2人の天使が聖母の頭上に王冠を置こうと飛翔しています。天使たちは雲の上に立ち、片手に王冠、もう一方の手に白い百合の花を持っています。

聖ヒエロニムスは枢機卿の赤いローブを身につけ、幼子イエスと視線を交わしています。一方、聖フランシスコは左手の聖痕から血を流しています。この構図は、依頼主スキャボーネが指定した《ロレートの聖母》の姿を反映しており、信仰の中心であった《ロレートの聖母》を模した聖母像は、周辺地域の教会にも数多く存在していました。

ペルジーノが描いた聖母は、サンタ・マリア・デイ・セルヴィ教会近くのサンタゴスティーノ教会の聖母像に似ているという指摘もあります。ペルジーノは同教会の祭壇画も制作しており、その聖母像をよく知っていたと考えられます。天使の図像は、15世紀後半に人気があった聖母をテーマにした挿絵本の版画に由来しています。

スキャボーネは遺言で高品質な作品を依頼するための様々な条件を指定していましたが、低予算のため実現しませんでした。科学的な調査の結果、ペルジーノは制作の一部を助手に任せていたことが判明しています。下絵は非常に単純で、塗装段階での変更はほとんどありませんでした。これは、助手が師のデザインに忠実に従っていたことを示しています。また、二天使のデザインは左右対称で、同じデザインを反転させて描かれています。

キリストや聖ヒエロニムスの頭部、背景の風景などはペルジーノ自身が描いたと考えられていますが、既存のデザインを再利用して制作を迅速に進めた可能性があります。

来歴

完成した祭壇画はサンタ・マリア・デイ・セルヴィ教会の礼拝堂に設置されましたが、1542年に教会が取り壊されたため、サンタ・マリーア・ヌオーヴァ教会に移されました。1821年には、ファブリツィオ・デッラ・ペンナ男爵によって、祭壇画はペルージャのペンナ宮殿に移され、代わりに地元の画家による複製が設置されました。1879年、ナショナル・ギャラリーが祭壇画を3200ポンドで購入し、現在に至ります。サンタ・マリーア・ヌオーヴァ教会には、現在も複製が設置されています。2010年には、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館に長期貸与されました。

プレデッラ

この祭壇画のプレデッラ（下段の装飾パネル）は、現在失われています。ウンブリア国立絵画館に所蔵されている3点の板絵『受胎告知』、『キリスト降誕』、『キリストの洗礼』が、本作品のプレデッラであるという説があります。

まとめ

「聖母子と聖ヒエロニムス、聖フランシスコ」は、ペルジーノの優雅な筆致と色彩感覚が際立つ作品であり、ルネサンス美術における聖母子像の重要な例として評価されています。依頼主の意向と異なる形で制作されたものの、その美しさと宗教的意義は、時代を超えて人々を魅了し続けています。

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