ロンドンの放蕩者

『ロンドンの放蕩者』（The London Prodigal）は、ルネサンス期のイギリス演劇を代表する作品の一つで、ロンドンを舞台にした都市喜劇です。この劇は、放蕩息子の転落と再生を描いており、当時の社会の姿を反映した内容となっています。

創作年代とジャンル

この戯曲が書かれたのは、1591年から1604年の間と推測されています。聖書の「放蕩息子」の物語をベースにし、エリザベス朝演劇では家庭劇に分類されました。また、自然主義演劇の先駆けとしても評価されています。この劇は、当時のロンドンの生活や価値観をリアルに描き出し、観客に深い共感を与えたと考えられます。

作者について

『ロンドンの放蕩者』は、1605年に書籍商ナサニエル・バターによって四折版が出版されました。その際、ウィリアム・シェイクスピアの作とされましたが、現在では多くの研究者がこれを否定しています。バターはシェイクスピアの人気にあやかりたかったと考えられます。そのため、シェイクスピアの「サード・フォリオ」にも収録されたという経緯があります。

作者については、ベン・ジョンソン、トマス・デッカー、ジョン・マーストン、マイケル・ドレイトンといった劇作家の名前が挙がっていますが、未だに特定には至っていません。この謎こそが、この劇の魅力の一つと言えるかもしれません。

あらすじ

物語は、商人フラワーデイルの息子マシューが、放蕩の限りを尽くす場面から始まります。彼はギャンブル好きで、口が悪く、暴力的で、酒におぼれるだけでなく、盗みまで働くという堕落した生活を送っています。マシューの叔父は彼の行いを心配しますが、父親は「若いうちは誰でも通る道」と楽観視しています。しかし、父親はマシューの真実の姿を知るために召使いに変装し、息子の行動を監視します。その結果、息子の悪行の数々に愕然とします。

マシューは、金持ちのふりをして、全財産をサー・ランスロット・スパーコックに寄贈するという偽の遺言状を作成します。スパーコックはこれを見て、娘ルースとマシューを結婚させようとします。結婚式当日、マシューは借金のために逮捕されます。その後、彼はどんどん貧困に陥り、ついにルースの妹から物を盗むというところまで落ちてしまいます。ルースはマシューからひどい扱いを受け、売春を強要される寸前まで追い詰められます。しかし、彼女の献身的な愛によってマシューは改心します。最終的に、マシューの父親が正体を明かし、改心した息子を祝福するという結末を迎えます。

この作品の意義

『ロンドンの放蕩者』は、放蕩息子の物語を通じて、当時の社会における道徳観や家族観を映し出しています。また、人間の弱さや、過ちを犯してもやり直せる可能性を示唆しています。作者は不明ですが、シェイクスピア劇として誤認されたほどのクオリティは、演劇史における重要な作品としての地位を確立しています。

参考文献

C. F. Tucker Brooke, The Shakespeare Apocrypha, Oxford, Clarendon Press, 1908.
Terence P. Logan and Denzell S. Smith, The Popular School: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama, Lincoln, Nebraska, University of Nebraska Press, 1975.
* Terence P. Logan and Denzell S. Smith, The New Intellectuals: A Survey and Bibliography of Recent Studies in English Renaissance Drama, Lincoln, Nebraska, University of Nebraska Press, 1977.

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