ローバー軽装甲車

第二次世界大戦下、イギリスからの装甲車供給が滞ったオーストラリアは、独自の装甲車の開発を余儀なくされました。その産物の一つが、ローバー軽装甲車です。1941年、オーストラリア軍は既存のフォード3tトラック（CMPトラック）のシャーシを流用した装甲車の開発に着手しました。

このプロジェクトでは、フォードCMPトラックの2種類のシャーシ、F60Lと車体を短縮したF60Sが用いられました。装甲車体そのものの製造は、メルボルンにあるラスキン・モーターボディース社が担当しました。生産期間は1941年から1943年までと比較的短く、総生産数は238両にとどまりました。

ローバー軽装甲車は1942年4月にオーストラリア軍に配備されました。しかし、この装甲車は実際の戦闘には投入されることはありませんでした。その主な用途は、乗員の訓練用車両として使用されたことです。

ローバー軽装甲車の最大の特徴は、車体上部に設けられた長く、狭い天井部分です。この独特の形状から、兵士の間では「移動式塹壕」というニックネームで親しまれていました。この形状は、車内の乗員にとって、ある程度の防御力を提供していたのかもしれません。しかしながら、その戦闘能力は限定的なものでした。

1943年末、アメリカ製のより近代的な装甲車がオーストラリアに供給されるようになると、ローバー軽装甲車はすぐに時代遅れとなってしまいました。その結果、比較的短期間で退役することになったのです。

ローバー軽装甲車は大きく分けて2つの型式が存在しました。マークIはF60Lシャーシを用いており、約40両が製造されました。一方、マークIIはF60Sシャーシを使用しており、約198両が生産されました。生産数の違いは、シャーシの種類と生産期間によるものと考えられます。

現在、レストアされたローバー軽装甲車（マークII）が2両現存し、それぞれアデレードの国立軍用車両博物館とビクトリア州のオーストラリア陸軍戦車博物館で一般公開されています。これらの車両は、オーストラリア軍の戦時下の技術力や、当時の事情を伝える貴重な史料となっています。ローバー軽装甲車は、決して華々しい活躍をした車両ではありませんでしたが、オーストラリア軍の戦時体制の一端を垣間見ることができる、重要な存在と言えるでしょう。

参考文献
Michael K. Cecil - Australian Military Equipment Profiles vol. 3, Australian Scout and Armoured Cars 1933 to 1945, 1993 Australian Military Equipment Profiles, ISBN 0-646-14611-4

参考ウェブサイト
Diggerhistory.info
Old CMP
Australian CMP Based Armoured Vehicles

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