ローラ・T370

ローラT370：エンバシー・ヒルの挑戦

ローラT370は、1974年と1975年前半にエンバシー・ヒルチームがフォーミュラ1で使用したレーシングカーです。設計を手掛けたのは、才能あるエンジニア、アンディ・スモールマンでした。シャドウDN1での挑戦が不首尾に終わった後、エンバシー・ヒルは信頼性の高いマシンを求め、ローラに白羽の矢を立てました。

T370は、ローラが得意とするフォーミュラ5000マシンの設計を基盤として開発されました。そのため、ローラ製のF5000カーとの類似点が見られますが、大きな特徴として、非常に大型のエアボックスを備えていた点が挙げられます。このエアボックスは、マシンの空力性能向上に大きく貢献したと考えられます。

チームは、経験豊富なグラハム・ヒルとガイ・エドワーズという強力なドライバーラインナップを擁し、2台体制で1974年シーズンに挑みました。マシンは1973年末から準備が進められ、1974年シーズンの開幕前には、綿密なテストが繰り返し行われました。

1974年シーズンの戦績

1974年シーズンは、チームにとって試練の連続でした。開幕戦アルゼンチングランプリでは、予選でヒルが17位、エドワーズは最後尾に沈みました。決勝ではヒルがエンジントラブルでリタイア、エドワーズは11位に終わります。続くブラジルグランプリでは雨の影響でレースが短縮される中、ヒルは11位で完走したものの、エドワーズはシャシートラブルでリタイア。南アフリカグランプリではヒル単独での参戦となり、予選18位、決勝12位という結果に終わりました。

ヨーロッパラウンドでは、スペイン、ベルギー、モナコ、スウェーデン、オランダ、フランスとレースが続きます。予選では、ヒルとエドワーズの順位は入れ替わるなど、両ドライバーの力量差はわずかでした。レース結果も上位入賞には届かず、ポイント獲得はスウェーデンでヒルが6位に入賞し、1ポイントを獲得したのみでした。これは、ヒルのF1キャリアにおける最後のポイント獲得となりました。このシーズン中、イギリスグランプリではエドワーズが事故で手首を骨折し、代役としてピーター・ゲシンが起用されましたが、体調不良によりリタイア。その後、エドワーズに代わり、ロルフ・シュトメレンがシーズン終盤を戦いました。

シーズンを通して、T370は信頼性の問題に悩まされました。エンジントラブルやギアボックス、燃料システム、サスペンションなど、様々なメカニカルトラブルに見舞われ、完走率の低さが結果に大きく影響しました。最終的に、グラハム・ヒルは1ポイントを獲得し、ドライバーズランキングで8位、ローラはコンストラクターズランキングで12位に終わりました。

1975年シーズンとその後

1975年シーズン、エンバシー・ヒルは新型マシンローラT371（後にヒルGH1と改名）の準備が間に合わず、開幕戦と第2戦ではT370を継続使用しました。しかし、第3戦南アフリカグランプリからはT371への移行が進み、T370はスペアカーとしてシーズンを終えました。その後、T370は実戦投入されることなく、その歴史に幕を閉じました。

ローラT370は、決して成功したマシンとは言えませんが、F1の歴史において、重要な1ページを刻んだマシンと言えるでしょう。信頼性の問題や、当時のF1界における激しい競争を象徴する一台として、その存在は記憶されるべきです。

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