ロールス・ロイス・シルヴァーゴースト

ロールス・ロイス「シルヴァーゴースト」：伝説の名車の歴史と技術

ロールス・ロイス「シルヴァーゴースト」は、1906年から1925年にかけて製造された大型高級乗用車「40/50HP」の愛称として知られています。その名は、類まれな静粛性と耐久性を象徴し、自動車史に燦然と輝く一台です。

誕生秘話と技術革新

1906年、フレデリック・ヘンリー・ロイスが設計を一新し誕生しました。前モデルの30HPで問題となったエンジン強度不足を克服するため、徹底した改良が加えられました。目標は、優れた走行性能、高いスタミナ、そして静粛性の融合。ロイスの完璧主義は開発のあらゆる局面に反映され、試作車のテストではエンジンブロックが割れた際には自ら工場へ行き、全てのブロックを検査するなど、妥協のない姿勢が伺えます。

その成果は、直列6気筒エンジンの完成度、そして静粛性という形で見事に結実しました。当時の専門誌は、その静けさを「八日巻の時計よりも静か」と評したほどです。7,036ccの大排気量エンジンは低速トルクと耐久性を重視した設計で、最高速度は時速105km/h以上に達しました。また、キャブレターはロイス設計の2ステージ式で、1934年までロールス・ロイス車に搭載され続けました。トランスミッションは4速MTで、入念なギア加工により、スムーズな変速を実現しました。

シャシはテーパーボルトで頑丈に組み立てられ、徹底した防振対策が施されました。その丈夫さは折り紙付きで、1914年のカタログでは3年保証を謳っていました。しかし、この高い信頼性と精緻な作りはコスト高を招き、価格は前モデルの倍以上となる1,000ポンド近くに達しました。

耐久テストとレースでの活躍

シルヴァーゴーストの真価が世に知られるきっかけとなったのが、1907年の「2000マイル・スコティッシュ・トライアル」への参加です。製造順12番目の車両、シャーシナンバー60551は、銀色に塗装された美しいボディと静粛なエンジンから「シルヴァーゴースト」と命名されました。このトライアルで、シルヴァーゴーストは見事金賞を獲得。燃料コックのトラブル1回のみという驚異的な耐久性を示しました。

続くロンドン-グラスゴー間の15,000マイル（約24,000km）のノンストップ耐久テストでは、トラブルは皆無。走行後の点検でも、消耗はわずか2ポンド2シリングでした。この驚異的な結果は、シルヴァーゴーストの名を不動のものにしました。

その後も、シルヴァーゴーストは様々な耐久レースで好成績を収めます。1911年のロンドン-エディンバラ間走行では、トップギア固定で19.35mpgという燃費を記録しました。1913年のアルパイントライアルでは、70-75HPにチューニングされた強化型シルヴァーゴーストが1～3位を独占しました。

生産と販売、そしてその後

レースでの成功により、シルヴァーゴーストは販売面でも好調を迎えました。ロールス・ロイスは1907年には生産モデルをシルヴァーゴーストに一本化。イギリス国内のみならず、海外にも輸出されました。「世界最高の自動車」として、その名は世界中に広まりました。

第一次世界大戦では、イギリス軍の大型指揮官車や軽装甲車のベースとして活躍。戦後も生産は継続され、王室や富豪たちに愛され続けました。日本にも輸入され、大正天皇や昭和天皇の御料車として使用された記録があります。

現在でも多くのシルヴァーゴーストが保存されており、その丈夫さは伝説となっています。ボディが先に傷むため、ボディを載せ替えて使用され、最終的には病院車や霊柩車に改造されることも多かったと言われています。

1925年までに製造されたシルヴァーゴーストは、総計6,173台。その精密な技術と高い品質は、後の自動車工業に大きな影響を与えました。その後のロールス・ロイス、そして自動車の歴史に大きな足跡を残した、名車中の名車と言えるでしょう。

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