ロールス・ロイス・ファントムII

ロールス・ロイス ファントムII：比類なき高級車と技術革新の融合

ロールス・ロイス ファントムIIは、1929年から1935年にかけて製造された、同社を代表する高級乗用車です。ファントムIの後継モデルという位置づけですが、その設計思想はむしろ前身のトゥウェンティーをさらに洗練させたものと言えるでしょう。

革新的なシャシとパワフルなエンジン

ファントムIIの最大の特徴は、その高度な技術にあります。まず、シャシはファントムIと比べて大幅に低重心化されました。これは、ファイナルギアにハイポイドギアを採用し、リアサスペンションをアクスルの下に配置する「アンダースラング・レイアウト」を採用したことにより実現しました。

搭載されるエンジンは、トゥウェンティーと同様に直列6気筒OHVエンジンです。しかし、ファントムIIでは、2つの3気筒ブロックを一体鋳造する設計に加え、軽合金製クロスフローシリンダーヘッドや改良されたマニフォールドを採用することで、大幅な性能向上を達成しています。内径φ4.25in×行程5.5in、排気量7,661ccのこのエンジンは、最高出力回転数をファントムIの2,750rpmから3,000rpmに向上させ、最高速度約149km/h、0-60mph加速19.6秒という、当時としては驚異的な性能を実現しました。'Auto Car'誌のロードテスト結果がその性能を裏付けています。

トランスミッションはエンジンと一体化された4速マニュアルトランスミッションで、1933年には3速と4速にシンクロメッシュが、1935年には2速にもシンクロメッシュが追加されるなど、改良が加えられました。

比類なき操縦性と快適性

ファントムIIの操縦性は、驚くほど滑らかで正確でした。これは、ステアリングギアのウォームとナットのペアに特殊なランニングイン処理を施すことで実現されました。何時間にも及ぶこの処理により、摩擦が最小限に抑えられ、非常に軽く、正確で、静粛なステアリング操作が可能になりました。

さらに、自動給油システムも大きな特徴です。ダッシュボード下のペダルを操作することで、プランジャーポンプが作動し、シャシのベアリング、ブッシュ、ピンに自動的に潤滑油が供給されます。このシステムにより、整備の手間が大幅に削減されました。初期型では一部手動給油が必要でしたが、後期型ではフレキシブルチューブの信頼性が向上したことで、アクスルへの給油も自動化されました。

ボディバリエーションと生産台数

ホイールベースは144インチ（約3,657.6mm）のショートホイールベース版と150インチ（約3,810mm）のロングホイールベース版が用意され、価格はそれぞれ£1,850と£1,900でした。従来のロールス・ロイスと同様に、シャシのみを販売し、顧客が希望するボディをコーチビルダーに発注する方式がとられていましたが、1933年からはロールス・ロイス自身もボディを架装した完成車を販売するようになりました。ただし、この時点でもボディ製作は外部のビルダーに委託されていました。

細部の改良を続けながら生産されたファントムIIの総生産台数は1,675台です。自動車評論家の小林彰太郎氏は、「最もロールスらしい魅力をたたえたロールス・ロイスだ」と評しています。

コンティネンタルモデル：スポーツ性とラグジュアリーの融合

1931年には、豪華な高速旅行を目的としたコンティネンタルモデルが追加されました。このモデルは、より硬いスプリングと低重心・短尺のシャシを採用することで、優れた操縦性と快適性を両立しました。その性能、操縦性、乗り心地、静粛性は世界最高峰であり、当時のスポーツカーをも凌駕する存在でした。一説には、フレデリック・ヘンリー・ロイス自身もこのモデルを愛車としていたと言われています。

ファントムIIは、高度な技術とラグジュアリーを融合した、まさにロールス・ロイスの傑作と言えるでしょう。その洗練されたデザインと高い性能は、今日でも多くのファンを魅了し続けています。

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