小林彰太郎

小林彰太郎：日本の自動車ジャーナリズムを牽引した巨匠

小林彰太郎氏（1929年-2013年）は、日本の自動車評論家、自動車社会史研究者として知られ、戦後の日本の自動車文化に計り知れない貢献を果たした人物です。世界的に著名な自動車評論家の一人として、日本のモータージャーナリズムを確立したパイオニアであり、その功績は日本の自動車産業発展に深く刻まれています。

生い立ちと自動車への情熱

1929年東京生まれ。名家であるライオン株式会社の創業一族の出身です。幼少期から成蹊学園で学び、少年時代は飛行機への強い関心を抱いていましたが、太平洋戦争終戦を機に、その関心は自動車へと移行します。戦後の混乱期、米軍が置き去りにした軍用車を運転した経験が、彼の人生を大きく変える転機となりました。

東京大学経済学部卒業後、自動車専門誌『モーターマガジン』への寄稿を開始。独自の視点と深い洞察による記事は高い人気を博しました。日本の国産車開発においては、タクシーや営業車からの脱却を主張し、オーナードライバー向けのモデル開発の必要性を訴えた先駆者でもあります。

『カーグラフィック』の創刊と発展

1962年、小林氏は『カーグラフィック』誌を創刊。当初は部数増加に苦戦しましたが、緻密なロードテストデータ、長期テストによる実用性評価、海外からの寄稿、そして国内外のモータースポーツ情報など、革新的な編集方針で、日本の自動車雑誌のあり方を一変させました。

編集長に就任した小林氏は、同誌を日本の代表的な自動車雑誌へと発展させました。加速やブレーキ性能といった客観的なデータと、日常使用に基づく長期テストを導入しただけでなく、ポール・フレールや山口京一といった海外の著名な自動車評論家からの寄稿も積極的に取り入れました。この斬新な編集方針は、日本の自動車産業にも大きな影響を与えました。

多彩な活動と人脈

『カーグラフィック』編集長を退任後も、編集顧問や名誉編集長として評論活動を続けました。その一方で、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員長を務めるなど、日本の自動車界に多大な貢献をしました。『日本クラシックカークラブ』会長としてクラシックカーラリーにも積極的に参加し、世界的なクラシックカーイベントの審査員を務めるなど、その活動は多岐に渡りました。

小林氏は、詩人の谷川俊太郎氏、ジャーナリストの三本和彦氏、レーシングドライバーのポール・フレール氏、そして本田宗一郎氏など、各界の著名人との親交も深く、その人脈は彼の幅広い活動を支えました。

類まれな才能と評価

小林彰太郎氏は、単なる自動車評論家の枠を超えた存在でした。歴史と技術への深い理解、自身の経験に基づいた味わい深い文章は、多くの読者を魅了しました。イギリス流の自動車文化への造詣も深く、日本の自動車文化の醸成に大きく貢献しました。

彼の功績は、日本の自動車ジャーナリズムの確立にとどまりません。黎明期の日本のモータースポーツの発展にも大きく貢献し、海外レースの報道やドライビングテクニックに関する書籍の翻訳を通じて、日本の自動車文化の国際化を促進しました。

晩年と没後

晩年も精力的に活動を続け、2012年には『カーグラフィック』創刊50周年記念イベントに出席。2013年、肺性心のため83歳で逝去しました。その死は自動車業界のみならず、多くの読者に深い悲しみをもたらしました。

小林彰太郎氏は、戦後の日本において自動車ジャーナリズムを確立し、日本の自動車文化を世界へと発信した偉大な人物でした。その功績は、後世に長く語り継がれるでしょう。

主な著書・翻訳

小林彰太郎の世界
天皇の御料車
On the road―すばらしきクルマの世界
いつもクルマがいた―ポール・フレール自叙伝（翻訳）
ハイスピード・ドライビング（翻訳）

所有車の一部

オースチン・7
ランチア・ラムダ
ブガッティ・タイプ23・ブレシア
ホンダ・S600
そして多くのクラシックカー…

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