ロールス・ロイス・ファントムV

ロールス・ロイス ファントムV：英国の至宝、その歴史と技術

1959年から1968年にかけて、ロールス・ロイス社はファントムVという名のラグジュアリーカーを製造しました。ファントムIVの後継モデルとして位置づけられますが、その実態はシルヴァーレイスの後継モデルに近い存在です。シルヴァークラウドIIのカスタムコーチワーク版大型シャシをベースに、エンジンやサスペンション、ブレーキといった主要な機構もシルヴァークラウドIIと共通しています。

わずか516台という限定生産数も、このモデルの希少性を際立たせています。中でも、エリザベス2世が使用した「キャンベラI/II」は特に有名な個体として知られています。その威厳と風格は、ロールス・ロイスというブランドの象徴を体現しています。

強力かつ滑らかな走りを支える機構

ファントムVの心臓部には、90度V型8気筒エンジンが搭載されています。その排気量は6,227cc。内径は約104.14mm、行程は約91.44mmという、当時としては大排気量エンジンです。4速ATと組み合わせることで、余裕のある走りを提供しました。

重量級ボディを支えるため、ファイナルギア比はシルヴァークラウドIIの3.08から3.88へと変更されています。しかし、最高速度は165km/hを超え、0-80km/h加速も9.7秒と、その動力性能は現代の基準から見ても卓越したものです。また、1/4マイルを19.4秒で駆け抜ける加速力は、まさに驚異的です。

しかし、驚異的な動力性能以上に注目すべきは、その乗り心地です。車内は極めて静かで、重厚かつフラットな乗り心地は、まさにロールス・ロイスならではのもの。長距離走行でも疲労を感じさせません。

個性的なコーチビルダーたち

ファントムVのボディは、パークウォード、H・J・ミュリナー、ジェームズ・ヤングといった、名高いコーチビルダーによって製作されました。それぞれのコーチビルダーが独自のセンスを活かし、多様なボディスタイルを生み出しました。

ジェームズ・ヤングは、スタイリッシュな5～6人乗りツーリングリムジンも製作しましたが、多くは7～8人乗りのリムジンが主流でした。1961年には、パークウォードとH・J・ミュリナーが合併してH・J・ミュリナー・パークウォードとなり、1966年にはステイツランドレーを発表するなど、コーチビルダー業界にも大きな変化をもたらしました。

価格と装備

シャシ単体の価格は£3130と、シルヴァークラウドIIと大差ありませんでした。しかし、完成車の価格は、パークウォードリムジンで£6285と、スタンダードサルーンよりも50％以上高価でした。

リアには油圧ダンパーが装備され、タウンユースとパレード、そしてラフロードや高速走行といった状況に合わせて2段階に調整可能でした。パワーステアリングは、当初路面感覚が希薄であるとの批判を受け、1959年に改良されました。また、1963年にはシルヴァークラウドIIIの改良に伴い、エンジン仕様の変更やヘッドライトの四灯化といった改良が加えられています。

結論

ロールス・ロイス ファントムVは、その希少性、圧倒的な動力性能、そして比類なき乗り心地によって、多くの愛好家を魅了し続けています。限られた数しか生産されなかったこのモデルは、まさに英国の至宝と言えるでしょう。その歴史、技術、そしてデザインは、これからも多くの人々を惹きつけ続けることでしょう。

参考文献

高島鎮雄『世界の自動車-22 ロールス・ロイス ベントレー - 戦後』二玄社
『ワールド・カー・ガイド27ロールス・ロイス&ベントレー』ネコ・パブリッシング ISBN 4-87366-166-8

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