ワイヤーカード

ワイヤーカードの盛衰：不正会計事件の全貌

ワイヤーカード（Wirecard AG）は、ドイツ・ミュンヘン近郊に本社を置き、決済サービスを提供する多国籍企業でした。世界40カ国以上に拠点を持ち、フランクフルト証券取引所にも上場していましたが、2020年に不正会計が発覚し、経営破綻に至りました。

急成長と事業拡大

ワイヤーカードは1999年にデトレフ・ホッペンラスによって設立され、当初は決済システムの提供を主な事業としていました。2002年に一度経営破綻を経験しましたが、その後再建を果たし、2005年にはフランクフルト証券取引所に株式を上場しました。2007年以降はアジア地域へ進出し、2009年にはシンガポールの決済サービス会社を買収するなど、グローバル展開を加速させました。

2012年にはモバイル決済ソリューション（mPOS）を開始し、インドネシアの同業を買収するなど、アジア太平洋地域での事業拡大を積極的に進めました。その後も、インドやブラジル、アメリカ合衆国などで事業買収を重ね、事業領域を拡大していきました。

ワイヤーカードは、従来のPOSシステムやカード発行業務に加え、NFCやウォレットといったモバイル決済、フィンテック分野にも進出し、200以上の国際的な決済サービスと100以上の取引通貨に対応していました。売上高はヨーロッパが中心でしたが、資産においてはアジア太平洋地域が大きな割合を占めていました。

不正会計の発覚と経営破綻

しかし、実際には2015年頃から経営状況は赤字に転落しており、経営陣は売上を水増しするなどの不正会計を行っていました。2019年1月には、イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙(FT)が不正会計の疑いを報道し、その疑惑が表面化しました。

2020年6月18日には、19億ユーロ（約2300億円）もの現金が所在不明であることが発表され、翌日にはCEOが辞任。同月25日には破産手続きの開始を表明し、経営破綻に至りました。

ワイヤーカードの[会計監査]]を担当していたのは、世界4大会計事務所]の一角である[[アーンスト・アンド・ヤング（EY）でしたが、EYは3年もの間、預金残高の十分な確認を怠っていたと報じられ、ドイツの検察当局による捜査や投資家からの訴訟に発展しました。

また、ドイツの連邦金融監督庁(BaFin)も、2019年にFT紙が不正会計の疑いを報じた際、疑惑を追及するどころかワイヤーカードを擁護し、同社株の空売りを禁止したことから、批判を浴びました。その結果、2021年1月には、BaFinの長官が辞任に追い込まれました。

事件後の影響

事件発覚後、最高執行責任者（COO）であったヤン・マルサレクは、オーストリアからプライベートジェットで逃亡し、モスクワでロシアのパスポートを偽名で取得したとされています。西側の情報機関や安全保障当局は、彼がロシアのスパイであった可能性が高いと指摘しています。

この事件は、企業の不正会計がもたらす影響の大きさを改めて示し、企業のガバナンスや監査体制の重要性が再認識されるきっかけとなりました。また、金融監督機関の役割と責任についても、見直しが必要であることを浮き彫りにしました。

ワイヤーカード事件は、テクノロジーとグローバル化が進む現代において、企業の倫理観と透明性が不可欠であることを示す教訓として、記憶されるでしょう。

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