ワインの匂い

オフコース『ワインの匂い』：500時間を超えたレコーディングと、新たな時代の幕開け

1975年12月20日、オフコース（当時：オフ・コース）の3作目のオリジナルアルバム『ワインの匂い』が発売されました。このアルバムは、バンドの歴史において重要な転換期を示す作品であり、その制作過程には数々のエピソードが隠されています。

プロデューサー交代と新たなサウンド

本作からプロデューサーに武藤敏史氏が就任しました。武藤氏はそれまでトワ・エ・モワやりりィなどを手がけていましたが、怪我による療養期間を経て、オフコースのプロデュースという大役を担うことになります。

前プロデューサーとの確執や、シングル「忘れ雪」をめぐる出来事がプロデューサー交代の背景にはありました。武藤氏はオフコースのメンバーである小田和正氏と鈴木康博氏と出会い、彼らの音楽性への深い理解と共感から、制作に参加することを決意します。

武藤氏はそれまでのアルバムにまとまりがないと感じており、オフコースが持つポテンシャルを最大限に引き出すため、時間をかけてじっくりと制作することにしました。その結果、レコーディング時間は500時間を超え、当時としては異例の記録となりました。

500時間を超えるレコーディング：細部へのこだわり

500時間を超えるレコーディングは、メンバーである小田氏と鈴木氏にとって、想像をはるかに超える経験でした。細部にまでこだわり抜いた制作は、彼らの音楽観を大きく変えることになります。武藤氏とメンバーによる熱のこもった作業の跡は、完成されたアルバム全体に息づいています。

楽曲一つひとつにも、多くのエピソードが隠されています。例えば、A面1曲目の「雨の降る日に」のイントロに使用されている車の走行音は、小田氏が豪雨の中、愛車で走行し録音したものです。また、「眠れぬ夜」は当初バラードでしたが、武藤氏の助言により8ビートにアレンジされました。

「ワインの匂い」は、荒井由実氏のステージを見たことがきっかけで生まれた曲です。この曲は、後に小田氏によってセルフカバーもされています。「憂き世に」で使用された「タワンジ」という楽器は、たわしでスポンジを擦るというユニークなものです。

「雨よ激しく」は後に鈴木氏によってセルフカバーされ、「愛の唄」はカーペンターズに提供しようと英語版まで制作されました。最終的に提供には至らなかったものの、リチャード・カーペンター氏からデモテープが届いていたというコメントが得られています。「老人のつぶやき」は、NHK『みんなのうた』への提供を依頼されたものの不採用となり、後に『Eテレタイムマシン 秘宝スペシャル』のオープニングテーマとして使用されました。

アルバムジャケットと収録曲

アルバムジャケット写真は、新宿御苑で撮影されました。収録曲は、小田氏と鈴木氏による作詞・作曲が中心で、それぞれの個性と才能が光るバラエティに富んだ楽曲が収録されています。

リリースとリマスター

『ワインの匂い』は、2005年にはオリジナルアルバム15タイトル紙ジャケット・シリーズとして、2009年にはSHM-CDフォーマットで再発されました。これにより、多くのリスナーが改めてこの名盤を聴く機会を得ることとなりました。

まとめ

『ワインの匂い』は、プロデューサー交代、500時間を超えるレコーディング時間、そして数々のエピソードが刻まれた、オフコースにとって重要な作品です。このアルバムは、彼らの音楽的成長と、新たな時代の幕開けを象徴する作品といえるでしょう。その完成度の高さ、そして制作秘話は、今もなお多くの音楽ファンを魅了し続けています。

もう一度検索