ワルサーPP

ワルサーPP (Walther PP): 警察用拳銃として歴史に名を刻む傑作

ワルサーPPは、1929年にドイツのカール・ワルサー社によって開発されたダブルアクション式自動拳銃です。PPとは、ドイツ語の「Polizeipistole（警察用拳銃）」の略称であり、その名の通り、当初は警察向けに設計されました。

特徴

ワルサーPPは、.22口径、.32ACP口径、.380ACP口径の3種類の口径があります。ダブルアクション機構を搭載しており、初弾を装填した状態からでも、トリガーを引くだけで発射できるのが特徴です。また、安全性にも配慮されており、手動式のセーフティレバーや、薬室に弾丸が装填されていることを知らせるシグナルピンなどが装備されています。

ワルサーPPは、その革新的な設計と高い信頼性から、世界各国の警察や軍隊で採用されました。また、民間市場でも人気があり、自己防衛用として多くの人々に愛用されています。

歴史

ワルサー社が自動拳銃の開発に乗り出したのは1908年のことでした。初期の製品はモデル1のように単純な名称のみ与えられていましたが、モデル9に次ぐ10番目の製品として開発されたのがワルサーPPです。当時、各国の法執行機関では安全性などを重視してダブルアクション式の回転式拳銃が広く配備されていました。ワルサー社ではこれを受け、ダブルアクションを組み込んだ警察用自動拳銃の設計を行ったのです。

1929年に特許が取得され、1930年から販売が始まりました。最初に発売されたのは7.65mmオート弾および9mmショート弾仕様のモデルでした。1930年代初頭には.22口径弾や6.35mm弾仕様のモデルも発表されましたが、普及はしませんでした。

ダブルアクションという珍しい特徴が評価され、発売後間もなくして欧州各国の警察組織が採用しました。また、ナチス・ドイツの時代には、国家社会主義ドイツ労働者党が有する準軍事組織（SA、SSなど）、警察組織、そしてドイツ国防軍によって制式拳銃として採用されました

1931年に発表されたワルサーPPKは、プロイセン州警察からの要請を元に設計されました。元々はショルダーホルスターを用いて拳銃を携行する私服警官向けのコンパクトなモデルと位置づけられていました。

PPシリーズの生産は第二次世界大戦中も続けられましたが、戦況が悪化した1943年から敗戦を迎える1945年頃までに製造されたものはそれ以前の製造分よりも品質が劣っていました。

敗戦後、赤軍が進駐したドイツ東部から西部へと脱出したフリッツ・ワルサーは、ウルムにてワルサー社の再建に着手しました。1952年、ワルサーは再建資金を確保するべくフランスのマニューリン（Manurhin）に接触し、PPシリーズの製造許可を与えました。マニューリンとの契約は1986年に失効しました。

ドイツ民主共和国（東ドイツ）では、かつてワルサー社の工場があったツェラ＝メーリスにて接収したPPシリーズを主にドイツ人民警察へと配備していたほか、後にワルサー社の許可を得ないままPPシリーズの生産を再開しました。P1001-0なる名称でコピー生産を行い、1970年代後半頃まで使用されていました。

開発以来80年以上を経過した古典的拳銃であるが、使用弾丸規格が市場の主流規格であることや、21世紀初頭でも通用する安全機構を備えた高い設計完成度によって市場での商品性を保っており、姉妹モデルであるワルサーPPKと共に、現在でも生産が継続されています。

またダブルアクション機構の他にも、安全装置設計での高度な配慮、トリガー・ガードが分解時に回転しテイクダウン・ラッチとして機能する合理性など、コンパクトな設計に盛り込まれた機能的システムには注目すべき点が多く、世界各国で開発された後続の中型・小型自動拳銃にも大きな影響を与えています。

機構

安全装置

手動の回転式セフティレバーを操作することで、ファイアリング・ピンを固定し、ハンマーの前進を阻止します。初期のモデルでは90度の回転が必要でしたが、後に60度回転で操作できるよう改良されました。

シグナルピン

薬室に実弾が装填されると、シグナルピンが突出して、銃を握った時に親指で確認できます。ただし、.22口径モデルでは省略されています。

スライドストップ

最終弾を撃ち終わると、スライドが後退した状態で保持されます。スライドストップ解除レバーはなく、スライドを少し引いて離すことで、次弾が装填されます。

通常分解

トリガーガードを引き下げ、スライドを後退させてから持ち上げると、スライドをフレームから分離できます。

派生モデル

PPスポーツ: 射撃用に銃身とグリップを大型化。
PPK: PPを小型化し、携帯性を向上。
PPスーパー: 9x18mmウルトラ弾を使用。
クルッカレ: トルコで生産されたコピーモデル。
* アストラ・コンスタブル: スペインのアストラ社が開発したクローンモデル。

ワルサーPPは、その優れた設計思想と完成度から、今日に至るまで多くの人々に愛され続けている名銃です。

もう一度検索