ワールドコム

ワールドコム：アメリカ史上最大の経営破綻とその軌跡

ワールドコムは、かつてアメリカ合衆国を代表する巨大電気通信事業者でした。しかし、2002年、410億ドルもの負債を抱え、アメリカ史上最大の経営破綻を遂げました。その劇的な興亡劇は、企業統治のあり方や会計不正の危険性を改めて世に知らしめることとなりました。本稿では、ワールドコムの設立から破綻、そしてその後までを詳しく辿ります。

設立と急成長

1983年、バーニー・エバーズによってLDDS（Long Distance Discount Service）として設立されたワールドコムは、積極的な合併・買収（M&A）戦略によって急速に成長しました。1990年代には、メトロメディア社やIDBワールドコムなどの企業を買収し、規模を拡大。さらに、大手ISPのUUNetや通信会社のMCIを買収し、世界65ヶ国で事業を展開する巨大企業へと成長しました。従業員数は6万人以上に達し、アメリカを代表する企業の一つとなりました。

成長戦略の転換点と破綻

1998年、MCIの買収を成功させた直後、ITバブルの崩壊により通信業界は低迷。さらに、スプリントとの合併計画は独占禁止法違反の疑いから頓挫し、ワールドコムの成長戦略は大きな打撃を受けました。株価の下落は止まらず、エバーズCEOは、保有するワールドコム株の証拠金維持に苦しむようになります。

窮地に陥ったエバーズは、自身への社内融資を決定。しかし、この策は失敗に終わり、2002年4月にはCEOの座を追われます。この頃、ワールドコムは既に粉飾会計を行っていました。1999年から2002年5月にかけて、株価維持のため、費用を資産計上するなど、自社の財務状況を実際より良く見せる会計処理が行われていたのです。 具体的には、「ラインコスト」の費用計上先送りや、架空の勘定科目を使用するなど、巧妙な粉飾会計が行われていました。

2002年6月、内部監査部門が約38億ドルの粉飾会計を発見。KPMGに報告された後、証券取引委員会（SEC）も調査を開始しました。その結果、総資産が約110億ドルも過大計上されていたことが判明し、ワールドコムは同年7月、連邦倒産法第11章の適用を申請。破綻は避けられませんでした。

破綻後とその後

経営破綻後、ワールドコムは社名をMCIに変更し、本社を移転。投資家への補償としてSECに巨額の資金を支払いました。その後、アメリカ国防総省からイラクにおける携帯電話網構築の契約を獲得しましたが、経験不足を指摘する声も上がりました。2005年にはベライゾン・コミュニケーションズに買収され、その歴史に幕を閉じました。

日本法人の歴史

1997年、日本法人のワールドコム・ジャパン株式会社（後にMCIワールドコム・ジャパン株式会社）が設立されました。外資系企業として初めて第一種電気通信事業者の免許を取得し、独自の光ケーブル網によるサービスを開始。森ビルとの提携などを通じて事業を展開していましたが、2006年、ベライゾンによるMCI買収に伴い、ベライゾンジャパン株式会社に社名変更されました。

教訓

ワールドコムの破綻は、企業の不正会計の危険性と、ガバナンスの重要性を浮き彫りにしました。企業の健全な成長には、透明性のある経営と厳格な内部監査体制が不可欠であることを改めて示す事例となりました。また、M&A戦略の成功と失敗、そしてその後の企業再生への道筋なども示唆に富む内容となっています。 この事件は、ビジネススクール等においても、企業倫理やリスクマネジメントの重要性を学ぶ上で、重要なケーススタディとして取り上げられています。

もう一度検索