ン・ブーム

ジャズ界の巨匠として知られるドラマー、マックス・ローチが1970年に立ち上げたグループ、ン・ブーム（M'Boom、またはM'Boom Re:percussion Ensemble）は、従来のジャズの概念を打ち破る革新的な試みとして誕生しました。パーカッション・アンサンブルという稀有な編成で、音楽におけるリズムと音色の可能性を追求しました。

このグループの最大の特徴は、メンバー全員が生粋の打楽器奏者であった点です。オリジナル・メンバーは、ローチ自身に加え、ロイ・ブルックス、ウォーレン・スミス、ジョー・チェンバース、オマー・クレイ、レイ・マンティラー、そしてフレディ・ウェイツといった、いずれも高い技術と豊かな創造性を持つ奏者たちが集結しました。彼らは単にリズムを刻むだけでなく、それぞれがメロディ、ハーモニー、テクスチャを担い、複雑かつ色彩豊かなサウンドを創り出しました。

ン・ブームのサウンドは、ドラムセットだけでなく、世界中の様々な打楽器を駆使することで成り立っています。使用された楽器は、ベル、ゴング、マリンバ、ティンパニ、ヴィブラフォン、シロフォン、ミュージックソーなど、多岐にわたります。これらの多様な楽器が組み合わせられることで、ポリリズム、多層的なテクスチャ、そして予測不能な展開を持つ独自の音楽世界が生まれました。彼らのアンサンブルは、打楽器だけでこれほどまでに表現豊かで奥行きのある音楽が可能であることを証明したのです。

ン・ブームは、その革新的なサウンドを追求し、いくつかの重要なアルバムを残しています。彼らのディスコグラフィには以下の作品が含まれます。

『リ・パーカッション』 - Re: Percussion (Strata-East, 1973年)
『撃攘』 - Re: Percussion (Baystate, 1977年) - 日本独自の企画盤としてリリースされました。
『ウン・ブーム』 - M'Boom (Columbia, 1979年) - メジャーレーベルからのリリースで、グループの認知度を高めました。
Collage (Soul Note, 1984年)
To the Max! (Enja, 1991年) - マックス・ローチ名義ですが、このアルバムにはン・ブームの演奏が3曲収められています。
Live at S.O.B.'s New York (Blue Moon, 1992年) - ライブでの迫力あるパフォーマンスを記録したアルバムです。

ン・ブームの活動は、打楽器のみで本格的なアンサンブルを構築できる可能性を証明し、ジャズにおけるリズムと音色の探求に新たな地平を切り開きました。彼らは単なるリズムセクションの集合体ではなく、それぞれの楽器がメロディ、ハーモニー、テクスチャ、そしてもちろんリズムを担うことで、豊かな音楽表現を実現しました。その革新的なアプローチは、その後の様々な音楽におけるパーカッションの扱いに影響を与えたと言えるでしょう。マックス・ローチのリーダーシップのもと、ン・ブームは短い活動期間ながらも、ジャズ史において独自かつ重要な足跡を残した、稀有なパーカッション・アンサンブルです。

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