ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1783年に作曲した《ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲ト長調 K.423》と《ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲変ロ長調 K.424》は、彼の室内楽作品の中でも特に重要な位置を占める楽曲群です。これらの二重奏曲は、モーツァルトが弦楽四重奏曲の金字塔ともいえる「ハイドン・セット」に取り組んでいた円熟期に創作されており、弦楽器による二重奏の分野においては代表的な作品と見なされています。

作曲の背景

これらの二重奏曲が書かれた背景には、モーツァルトの友人であった作曲家ミヒャエル・ハイドンとの関わりがあったと一般的に伝えられています。モーツァルトがウィーンで自立する以前、ザルツブルクの宮廷および教会でモーツァルトの後任として作曲家兼オルガン奏者を務めていたミヒャエル・ハイドンは、当時の大司教ヒエロニュムス・コロレドからヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲6曲の作曲を依頼されていました。しかし、ハイドンは4曲を書き上げたところで病に倒れてしまいます。

ちょうどその頃、ウィーンからザルツブルクに妻コンスタンツェを伴って帰省していたモーツァルトは、友人の窮状を知ります。ミヒャエル・ハイドンが病気のために残りの依頼に応じられないことを理解したモーツァルトは、彼のスタイルを意識しながら、急遽この2曲の二重奏曲を作曲したとされています。伝えられるところによれば、モーツァルトはわずか2日で作品を完成させ、それをハイドンに届けた際、楽譜にはハイドン自身の名前だけを記すように促したといいます。

しかし、この広く知られる作曲経緯については、その信憑性を巡って議論が続いています。この話がミヒャエル・ハイドンの弟子による伝承に基づいていること、そしてそれを裏付ける明確な史料が存在しないことが主な理由です。例えば、音楽学者のアルフレート・アインシュタインは、モーツァルトがこれらの楽譜を自身に送るよう父レオポルトに依頼した書簡（1783年12月6日付および24日付）が存在することから、モーツァルトがこれらの作品の所有権を放棄していなかったと指摘し、上記の伝承は創作である可能性を示唆しています。また、Alison Elaine Spiethは、ミヒャエル・ハイドンが作曲した4曲とモーツァルトの2曲の間には、筆致（書法）において明確な相違点が見られることを論拠の一つとして挙げています。

出版までの道のり

作曲から数年後、経済的に困窮していたモーツァルトは、1788年にミヒャエル・ハイドンの作品を含めた計6曲の二重奏曲をまとめて出版する計画を発表しました。しかし、この計画は延期されたと見られています。結局、これらの二重奏曲が出版されたのはモーツァルトの死後、1792年のことであり、ウィーンの出版社アルタリアから、モーツァルト作曲の2曲のみが刊行されました。

作品の特徴

ヴァイオリンとヴィオラというわずか2本の楽器による編成は、室内楽としては最小限であり、作曲や演奏において楽器の特性を生かす上で難しい側面も持ち合わせます。しかし、モーツァルトはこの困難な編成を見事に克服し、密度が高く充実した室内楽曲として仕上げています。楽器の音域や機能から、ヴァイオリンが旋律を主導し、協奏的な役割を担う一方で、ヴィオラが主にハーモニーやリズムを支える伴奏に回る場面も少なくありません。それでも、二つの楽器が対等に、あるいは時には互いの役割を交代しながら繰り広げる掛け合いは絶妙であり、作品全体に魅力的な響きを与えています。

楽曲構成

2曲の二重奏曲は、それぞれが異なる楽章構成と音楽的性格を持っています。

ト長調 K.423
1. Allegro
2. Adagio
3. Rondeau (Allegro)

変ロ長調 K.424
1. Adagio - Allegro
2. Andante Cantabile
3. Thema. Andante grazioso - Variazioni I-VI - Allegro（主題と6つの変奏）

ト長調のK.423は快活で生き生きとした雰囲気を持つのに対し、変ロ長調のK.424はより穏やかで抒情的、かつ充実した情緒を湛えています。特にK.424の終楽章は、優雅な主題とそれに続く6つの変奏によって構成されており、2つの楽器による創意に富んだ対話を楽しむことができます。

編成

ヴァイオリン: 1
ヴィオラ: 1

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