ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲 (メンデルスゾーン)

フェリックス・メンデルスゾーン作曲の《ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲 ニ短調》MWV O 3は、現在広く知られている彼のヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64よりも遥か以前、作曲家がわずか13歳だった1822年に書かれた初期の重要な作品です。この協奏曲は、長年にわたりその存在が忘れ去られていましたが、著名なヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインによって「再発見」されたという、ドラマティックな歴史を持っています。

作曲の背景と楽譜の数奇な運命

このニ短調協奏曲は、1822年の1月から3月にかけて、メンデルスゾーンがまだ青年期に入る直前の多感な時期に作曲されました。当時、メンデルスゾーン家では定期的に親しい人々が集まるサロン演奏会が開かれており、本作もそうした内輪の集まりのために生み出された一連の楽曲の一つと考えられています。

特に、この演奏会に常連として参加していた友人であり、メンデルスゾーンにとって音楽の先輩でもあったヴァイオリニスト、エドゥアルト・リーツのために書かれたと伝えられています。リーツはこの若き天才の才能を認め、彼の作品を演奏することで支えました。

しかし、メンデルスゾーンの死後、この作品の初稿譜は未亡人セシル・シャルロット・ゾフィ・ジャンルノーによって所有されていました。セシルは1853年に、著名なヴァイオリニストでありメンデルスゾーンの友人でもあったフェルディナンド・ダヴィットにこの楽譜を贈ります。ダヴィットはメンデルスゾーンのホ短調協奏曲の初演者であり、親しい間柄でした。ダヴィットが1873年に亡くなった後、楽譜はイギリスへ渡った息子のペーター・ユリウス・パウルへと相続されました。ところが、パウルが1932年に世を去ると、この協奏曲の楽譜と作品自体の存在は、そのまま人々の記憶から忘れ去られてしまったのです。

再発見と蘇演

この忘れられた傑作が再び光を浴びるのは、パウルの死後20年近く経った1951年のことです。世界的なヴァイオリニスト、ユーディ・メニューインがロンドンを訪れた際、メンデルスゾーンの子孫にあたる一族の邸宅を訪れる機会がありました。そこで、彼は偶然にも本作の自筆草稿を目にしたのです。

メニューインはこの初期作品の価値を即座に認識し、その存在を広く知らしめるべく尽力しました。彼の働きかけにより、翌1952年にはこのニ短調協奏曲の蘇演（最初の公開演奏）が行われ、同年には楽譜も初めて出版されました。こうして、13歳のメンデルスゾーンが書いた隠れた傑作は、再び演奏の機会を得て、多くの人々に聴かれるようになったのです。

楽器編成と楽章構成

本作は独奏ヴァイオリンと弦楽合奏（弦五部）のために書かれています。総演奏時間は約23分です。

全3楽章で構成されています。

1. 第1楽章：アレグロ・モルト (Allegro molto)
ニ短調、4分の4拍子。協奏的ソナタ形式。オーケストラによる力強い第一主題の提示に続き、独奏ヴァイオリンは対照的に流麗で歌謡的な旋律を奏でます。若々しいエネルギーと古典的な形式感が融合しています。

2. 第2楽章：アンダンテ (Andante)
ニ長調、8分の3拍子。自由な変奏曲形式。優雅でロマンティックな情緒に満ちており、独奏ヴァイオリンの技巧を披露するカデンツァが配されています。この楽章は切れ目なく（アタッカで）最終楽章へと続きます。

3. 第3楽章：アレグロ (Allegro)
ニ短調、4分の2拍子。ソナタ形式、あるいはロンド・ソナタ形式とも解釈できる形式で、前の楽章からそのまま続きます。活気に満ちた軽快なロンド主題が特徴的で、フランス風やハンガリー風とも形容されるその躍動感は聴く者を惹きつけます。ここでもカデンツァが登場し、独奏者の技巧が光ります。

このヴァイオリン協奏曲ニ短調は、後の大傑作であるホ短調協奏曲に繋がるメンデルスゾーンの才能の萌芽を示す作品であり、その発見の経緯も相まって、興味深い音楽史の一ページを飾る作品と言えるでしょう。

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