ヴァイオリンソナタ (ルクー)

ギヨーム・ルクー（1870-1894）が1892年に完成させたヴァイオリン・ソナタ ト長調は、彼の短命な生涯における重要な室内楽作品です。ベルギー出身のルクーは、フランスのパリに移り住んだ後、同じくベルギー出身のセザール・フランクに師事し、フランク没後はその弟子ヴァンサン・ダンディに学びました。

パリ移住から約3年後の1891年、ルクーはカンタータ『アンドロメダ』でローマ賞コンクールに応募し2等賞を獲得しますが、結果に納得できず受賞を辞退します。この作品に深く感動したのが、ベルギー出身の著名なヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイでした。イザイはルクーに新作の作曲を依頼し、その翌年、1892年にこのヴァイオリン・ソナタが誕生しました。作品は作曲を依頼したイザイに献呈され、彼は翌1893年3月7日にこのソナタを初演しています。しかし、作曲者ルクーは初演の翌年にあたる1894年、わずか24歳でこの世を去りました。

本ソナタは全3楽章から成り、演奏時間は約30分です。ルクーの音楽には、恩師フランクに通じる献身的な姿勢が見られます。特にこのソナタでは、フランクの創作手法である循環形式が取り入れられています。複数の主要主題が、調性やテンポ、そして様々な表情をもって各楽章に繰り返し姿を現します。例えば、第1楽章の冒頭に現れる主題は、終楽章である第3楽章にも3回登場します。

構成

第1楽章：Très modéré - Vif et passionné
序奏付きのソナタ形式です。序奏は、聴く者を優しく包み込むような温かい光を思わせる主題が語りかけるように展開されます。それに続く主部では、多様な主題が散りばめられ、ヴァイオリンとピアノが互いに情熱的に絡み合い、音楽は前進を続けます。やがて熱狂はやわらぎ、再び穏やかな世界へと戻ります。

第2楽章：Très lent
静かで情感豊かな緩徐楽章です。この楽章では、8分の7拍子を基調としつつも、拍子が不規則に変化する特徴があります。この拍子の変化は、ルクーの故郷であるベルギーのワロン地方の民謡に由来するものとされています。

第3楽章：Très animé
活気あふれる終楽章です。冒頭で音楽は強い決意を表明するかのように始まり、ピアノによって奏でられる旋律に乗って、勢いよく前進していきます。中間部では、第1楽章の序奏主題が回帰し、一時的に恍惚とした響きの中でためらいが見られます。しかし、遠くからピアノが語りかけるように繰り返す動機によって再び覚醒し、再び勢いを取り戻してコーダへと向かいます。最後は、輝かしい光を目指して駆け抜けるように全曲が閉じられます。

録音史

このヴァイオリン・ソナタの歴史的な録音としては、ベルギーのヴァイオリニスト、アンリ・コックによるものが挙げられます。彼は1932年にフランス・ポリドールでこの作品を録音しており、これが世界初の録音とされています。日本国内においては、第二次世界大戦終結から4年後の1949年頃に、巌本真理（ヴァイオリン）と野邊地勝久（ピアノ）の共演により、日本コロムビアで録音が行われています。

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