ヴァイオリンソナタ第34番 (モーツァルト)

ヴァイオリンソナタ第34番 変ロ長調 K.378 (317d)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが手掛けたヴァイオリンソナタの中でも、特に広く知られ、親しまれている作品の一つに、ヴァイオリンソナタ第34番 変ロ長調 K.378（ケッヘル番号317d）があります。偽作とされる初期の作品群（K.55〜61）を除くと、モーツァルトが作曲したヴァイオリンソナタとしては26番目に位置付けられます。

作曲背景と特徴

このソナタは、モーツァルトが女性ピアニスト、ヨーゼファ・フォン・アウエルンハンマーに献呈した6曲のソナタ集に含まれる一曲です。その作曲時期については、いくつかの説があります。一つは、約2年間に及ぶマンハイムとパリへの旅行からザルツブルクへ帰郷して間もない1779年初頭に書かれたという説です。もう一つは、1781年にウィーンで、当時のヴァイオリンの名手フランツ・ブルネッティのために作曲されたという説で、現在では後者の説がより有力視されています。しかし、当時の詳しい資料が少ないため、確証は得られておらず、不明な点も少なくありません。

楽曲の音楽的性格は、優美さと華やかさが特徴です。流れるような美しい旋律、洗練された響き、そして特にピアノが生き生きと活躍し、ヴァイオリンと対等に渡り合う書法が際立っています。この作品には、モーツァルトがマンハイムやパリで経験し吸収した、フランス風のエレガントな様式が見事に溶け込んでおり、モーツァルト自身の持つ類稀な個性と完全に一体となっています。こうした特質から、このソナタは演奏機会が多く、多くの音楽ファンに愛されています。また、音楽学的な視点からは、後のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの有名なヴァイオリンソナタ第5番「春」に見られるいくつかの楽想や構成要素を先取りしている、あるいは示唆している作品として言及されることもあります。

楽曲構成

全3楽章で構成されており、全曲を通しての演奏時間は約18分です。

第1楽章：アレグロ・モデラート (Allegro moderato)

4分の4拍子、ソナタ形式。この楽章は、三つの異なる主題によって構成されています。特に抒情的な性格を持つ二つの主題が中心となり、繊細な陰影と柔和な雰囲気に満ちた豊かな音楽世界が展開されます。この楽章の特徴の一つとして、最初の主題がピアノとヴァイオリンによって二度繰り返し提示される点が挙げられます。

第2楽章：アンダンテ・ソステヌート・エ・カンタービレ (Andante sostenuto e cantabile)

変ホ長調、4分の4拍子、三部形式。この楽章は、気品あふれる「ソット・ヴォーチェ」（声をおさえて、あるいは控えめに）の指示を持つ歌謡的な旋律（カンタービレ）によって開始されます。内面的で情緒豊かな表現が聴き手の心に深く響く、美しい緩徐楽章です。

* 第3楽章：ロンドー.アレグロ (Rondò. Allegro)

8分の3拍子。フィナーレを飾るのは、エレガントなフランス風のロンドー形式による楽章です。活気に満ちた主要主題が繰り返し現れることを軸に構成され、快活で躍動感に富んだ音楽が展開します。明るく華やかな雰囲気の中で、楽曲全体を見事に締めくくります。

モーツァルトのヴァイオリンソナタ第34番は、その作曲背景に不明瞭な点がありながらも、楽曲自体の持つ普遍的な美しさと魅力によって、今日でも多くの人々に愛され続けている傑作と言えるでしょう。

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