ヴァイタフォン

ヴァイタフォン：トーキー映画黎明期のサウンドシステム

ヴァイタフォンは、映画史において重要な役割を果たした初期の音声システムです。1920年代後半、アメリカ合衆国で開発され、サイレント映画全盛期からトーキー映画時代への橋渡しとして広く利用されました。本稿では、ヴァイタフォンの仕組み、歴史的背景、そしてその功績と限界について詳しく解説します。

ヴァイタフォンの仕組み

ヴァイタフォンは、ウェスタン・エレクトリック社とワーナー・ブラザースが共同で開発したサウンド・オン・ディスク方式を採用していました。これは、映画撮影と同時にワックス製の円盤に音声を録音し、それを複製したレコードを映画上映時に再生する仕組みです。当時としては画期的な技術で、比較的安価に音声と映像を同期させることが可能でした。レコードの回転数は、一般的に33⅓回転または33回転のものが用いられました。

16インチの大型レコードが使用された最初の商業上映は、1926年8月6日、ニューヨークのワーナー・シアターで行われたジョン・バリモア主演の『ドン・ファン』でした。しかし、大きな注目を集めたのは翌1927年、アル・ジョンソン主演の『ジャズ・シンガー』の上映でした。この作品では、一部の台詞が音声として収録されており、これが大きなセンセーションを巻き起こし、ヴァイタフォンはトーキー映画時代の幕開けを告げるシステムとして広く認知されることになります。

ヴァイタフォンの利点と欠点

ヴァイタフォンの大きな利点は、その簡便さです。既存のサイレント映画の上映設備に、レコードプレーヤーを追加するだけでトーキー映画の上映が可能でした。映画制作現場においても、従来の技術やワークフローを大きく変更する必要がありませんでした。そのため、多くの映画製作者や映画館が容易にこのシステムを採用することができました。

しかし、このシステムには大きな欠点もありました。最大の欠点は、撮影後の音声編集が不可能だった点です。レコードに直接音声を録音するため、編集作業は事実上不可能でした。さらに、上映中の音声と映像の同期も容易ではありませんでした。もし、レコードの再生にずれが生じれば、映写技師が手動で針の位置を調整しなければなりませんでした。

ヴァイタフォンの衰退とその後

ヴァイタフォンの欠点を克服する技術として、フォックス映画社が開発したムービートーン（Movietone）が登場しました。ムービートーンは、フィルム自体に音声を録音するサウンド・オン・フィルム方式を採用していたため、音声編集が可能で、上映時の同期も容易でした。ムービートーンの登場により、ヴァイタフォンは急速にその地位を失っていきました。

しかし、ヴァイタフォンはすぐに姿を消したわけではありません。ムービートーンはフィルム現像後まで音声を確認できないという欠点があったため、ヴァイタフォンは現場での音声確認や、録音機器の故障時のバックアップ手段として、1930年代半ばまで使用され続けました。また、多くの映画館でヴァイタフォンの再生設備が既に導入されていたため、ムービートーンで製作された映画でも、ヴァイタフォン用のレコード盤が同時製作されることもありました。

現代技術との関連性

ヴァイタフォンと同様の原理を持つシステムとして、現代のDTS方式があります。DTS方式では、フィルムにデジタル同期信号が記録され、専用のデジタル信号処理により正確な音声同期を実現しています。ヴァイタフォンは、初期の音声システムとして成功と失敗を経験しましたが、その技術は現代の高度なデジタル技術の基礎に貢献したと言えるでしょう。

まとめ

ヴァイタフォンは、映画史における重要な技術革新の一つです。その簡便さによってトーキー映画時代の到来を加速させましたが、技術的な限界も持ち合わせていました。ヴァイタフォンの歴史を振り返ることは、映画技術の進化、そして技術革新と市場のニーズとの複雑な関係性を理解する上で重要な視点となります。

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